肥厚性幽門狭窄症は,幽門筋の肥厚により胃の幽門部の通過障害を呈する疾患で,その原因は不明である。生後1カ月前後の新生児・乳児期に発症し,頻度は1000~1500人に1人である。男児(男女比4:1程度),第1子に多い。
噴水様嘔吐と呼ばれる,主に哺乳後に非胆汁性の勢いの激しい嘔吐を呈する。脱水が進行していない軽症例では活気は良好で,嘔吐後もミルクを欲しがる。丁寧に身体診察を行うと上腹部にオリーブ様腫瘤と呼ばれる肥厚した幽門部を触知する。
腹部単純X線:胃泡の拡大や胃の蠕動亢進,小腸・結腸ガスの減少が認められる。
腹部エコー:幽門筋の肥厚(3.5~4mm以上)と幽門管の延長(15mm以上)を認める。短軸像では肥厚した幽門筋がドーナツにみえる(doughnut sign)。幽門部の観察には,肝臓を音響窓として利用する,やや右下の姿勢にして胃幽門部付近のガスを移動させる,などの工夫が有効である。典型的な症状を呈し,エコーで幽門筋肥厚・幽門管延長が認められれば診断は確定的である。
上部消化管造影:延長・狭小化した幽門部を反映したstring signやumbrella signを呈する。最近では上部消化管造影が施行されることは少ない。
血液検査:典型例では嘔吐による胃酸の喪失に伴う低クロール性代謝性アルカローシスと,尿細管からH+の代わりにK+が排出されることによる低カリウム(K)血症を呈する。早期に診断される例では血液検査で異常を認めない症例も多い。一方で,病悩期間が長い症例では,脱水を反映して血清クレアチニンや尿素窒素の上昇を認めることもある。
新生児・乳児期の嘔吐をきたす疾患として,腸回転異常症・中腸軸捻転,胃軸捻転,胃食道逆流症などが鑑別に挙がる。
嘔吐の予防のためまずは禁乳とし,必要時は胃管挿入と胃の減圧を行う。最初に輸液により脱水と電解質異常,アルカローシスを補正する。その後の治療としては内科的治療の硫酸アトロピン療法と外科的治療の手術がある。内科的治療は手術を回避できるのが最大の利点であるが,治療期間が長く有効性が手術より低い(奏効率70~80%),頻脈,顔面紅潮,便秘などの副作用が問題となる。手術療法は効果が確実で治療期間が短いが,稀ではあるものの手術・麻酔合併症が問題となる。
多くの施設では硫酸アトロピン療法と手術療法の両方を家族に説明し,家族の希望・意向に応じて治療方針が選択されている。また,硫酸アトロピン療法が施行される際には,一定期間(1週間程度)で十分な哺乳が可能とならない症例については手術が検討される。国内では硫酸アトロピン療法が広く実施されているが,欧米では外科的治療が標準とされている1)2)。
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