【喀痰とは?喀痰症状に着目した呼吸器診療のすすめ】
日本呼吸器学会から2019年4月に上梓された「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019」は,喀痰に関しては世界初のガイドラインである1)。喀痰は,咳嗽と密接な関係にあり,ともに呼吸器疾患における最も重要な症候である。粘液線毛クリアランスの処理能力を超えて気道分泌が過剰になると,咳クリアランスによる代償が生じ,咳嗽とともに気道分泌物が喀痰として喀出される。ガイドラインでは,喀痰は「下気道から気道外に喀出された気道分泌物の総称」,気道分泌物は「気道の分泌細胞や気道上皮細胞などから分泌された物質や水分」と定義されている。
喀痰は,非侵襲的に採取できるきわめて有用な臨床検体であり,肺や気道の状態をよく反映する。色調や性状を観察し,病原微生物,悪性細胞,炎症細胞を検出することで,咳嗽や喀痰の原因疾患の診断を導くことができる。特に,呼吸器感染症における抗菌薬の選択,そして肺癌や肺結核の迅速な診断において,喀痰検査の有用性が高い。また,喀痰症状の存在は,咳嗽を誘発することで患者のQOLを低下させ,喀出困難になると換気障害や窒息死の原因となる。このように,喀痰は呼吸器診療において非常に重要な治療ターゲットとなる。本ガイドラインにより喀痰についての理解が深まり,喀痰症状に着目した呼吸器診療が行われるようになることを期待したい。
【文献】
1) 日本呼吸器学会:咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019. メディカルレビュー社, 2019.
【解説】
金子 猛 横浜市立大学呼吸器病学主任教授/日本呼吸器学会「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン」作成副委員長,喀痰セクション責任者