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【識者の眼】「HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(2):何が起きたのか」奥山伸彦

No.5004 (2020年03月21日発行) P.62

奥山伸彦 (JR東京総合病院顧問)

登録日: 2020-03-19

最終更新日: 2020-03-17

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2013年6月、「接種後に『持続的な疼痛や運動障害』が発生したため、十分な情報が得られるまで一時的に中止する」として、HPVワクチンの積極的勧奨が中止された。その後、失神、頭痛、腹痛、発汗、睡眠障害、月経不正、学習意欲の低下、計算障害、記憶障害など多様な症状が合併しやすいことがわかり、最終的には、「広い範囲に広がる痛みや、手足の動かしにくさ、不随意運動などを中心とする多様な症状」(2018年1月)と表現されている。また同時に、多くに器質的疾患にはみられない多様性、変動性、そして転動性(注意が他に向くと症状が変化する)が認められ(2014年1月)、病態のメカニズムとして、器質的原因や心理的要因が確認されない機能性身体症状と整理されている(2014年7月)。また、全体としては、接種者1万人当たり約10人が発症し、多くは保存的に診て軽快するが、その約10%に、疼痛を主体とする多様な症状の悪化、拡大がみられ、著しい生活困難に陥り、その後数年経過しても症状が残存し生活の障害が回復していないのが事実経過である。

同様の症例は、頻度は低いものの海外でも報告されているが、「発症時期・症状・経過に統一性がないため、単一の疾患が起きているとは考えておらず、ワクチンの安全性に懸念があるとは捉えていない」とされている。また、昨年、世界保健機関(WHO)はワクチン後の有害事象について、ワクチンストレス関連反応(ISRR)として改めてまとめているが、その中で複合性局所疼痛症候群、体位性頻脈症候群、慢性疲労症候群、身体症状症について、ワクチンとは因果関係がない有害事象と判断している。

少なくとも複雑系としての脳の神経・精神システムの変容に由来するものという印象からは、原因を追究して還元論的に医療を組み立てるにはあまり適切ではない疾患であり、だからこそ生物心理社会的モデルを想定して診療論からアプローチすべき疾患と思われる。

奥山伸彦(JR東京総合病院顧問)[小児科][HPVワクチン]

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