コレステロール塞栓症とは,主に大動脈などの大血管粥状硬化(プラーク)病変が血管内カテーテル検査等の刺激により破綻し,プラークに含まれるコレステロール結晶が末梢の小動脈に詰まることにより,急性および慢性の臓器虚血や炎症を起こし,それに伴い生ずる病態を言う。
腎臓で発症すると急性腎障害や慢性腎不全,腸間膜動脈に発症すると消化管症状,足に発症するとblue toe症候群と呼ばれる虚血性病変を生ずる。また,皮膚ではlivedo reticularis(網状皮斑)と呼ばれる網目状の紅斑を生ずる。これも皮膚の血液循環障害によって生ずる。本症を強く疑う場合には眼底検査を行い,網膜動脈分岐部に明るい黄色斑(Hollenhorst斑)を認めると本症診断に役立つ。確定診断は生検により行われるが,最も侵襲度の低い皮膚生検が勧められる。
本症の予後は,著しく悪い。その原因は,既に広範な動脈硬化病変を持ち,様々な合併症が並存しているためである。
本症に対する治療ガイドラインはいまだに存在しない。
大動脈のプラークの破綻では,コレステロール塞栓症と血栓塞栓症が生ずるが,その治療法がまったく異なるので,鑑別することが重要である。
コレステロール塞栓症は,血栓塞栓症に比べて非常に稀に発症する。よって,その存在を疑うことはとても重要である。動脈硬化の強い高齢者に多く発症し,誘因としてカテーテル検査など血管に対する物理的な刺激が知られているが,自然発症することもある。抗凝固薬の使用により発症リスクが高まるとするとの報告もあるが,十分なエビデンスはない。
経食道エコーで,大動脈プラークが4mm以上あり内腔に突出していたり,潰瘍形成型のものはコレステロール塞栓発症のリスクが高い。
腎臓では,弓状動脈から糸球体毛細血管に至るまで,様々な部分に塞栓が生ずる。1回に大量のコレステロール結晶が放出されると急性腎障害を生ずる。一方,少しずつ反復性にコレステロール結晶が放出されると数週間かけて腎機能が低下する。最も多いのはこのパターンである。さらにゆっくりした進行を示す型もあるようであるが,動脈硬化による虚血性腎症との鑑別は困難である。
コレステロール結晶は不溶性なので,数カ月にわたり局所にとどまると言われている。コレステロール結晶の周囲には遊走細胞が集まり,数日後には血栓形成,内皮細胞増殖や線維化が生じる。その後,巨細胞や平滑筋細胞にコレステロール結晶が包まれるとともに炎症・閉塞が生ずる。このような経過をたどって腎機能が徐々に低下する。
不溶性のため,コレステロール結晶を溶かす治療法はない。
よって,発症を予防することが大切である。発症後は,臓器障害を改善させる,あるいはさらなる悪化を防ぐための支持療法が主体となる。
strong statinを用いた脂質管理1),高血圧や血糖管理,禁煙などの心血管リスクを適切に管理する。
ワルファリンは,作用機序からコレステロール塞栓症においても血栓作製を抑制する可能性があり,進展予防のために使用を検討する場合がある。しかし,コレステロール塞栓症における血流障害の原因は,粥腫の一部による閉塞や反応性変化による虚血であることが多く,血栓形成によるものではないことが多い。さらに,ワルファリンは,アテローム性プラークを血管から剝がしたり,塞栓部位の壊死や死亡に関連することが報告されている。よって,コレステロール塞栓症あるいは大動脈
プラークの存在するときに抗凝固薬を用いるべきかどうかは,適切な臨床研究の結果を待ちたいところである。
プラークの破綻を予防するために,心臓カテーテルなどは上腕動脈や橈骨動脈から行うことや,診断カテーテルの代わりにCTアンギオグラフィを用いるなども有用であろう。
病態に炎症も関連しているため,ステロイド治療が行われることがあるが有効性は確立していない。しかし,感染がないのに炎症反応が高い場合には比較的少量のステロイド(0.3~0.5mg/kg)が使用される場合がある。
LDLアフェレシスが有効との症例報告があるが,保険適用外である2)。
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