ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia:PCP)は,真菌に分類されるPneumocystis jiroveciiを病原微生物とする日和見感染症である。ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)患者では,非HIV患者に比べ経過が比較的緩徐であるが,肺内の菌量が多いとされている。非HIV患者のPCPは急速に重症化しやすい。サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)の多くは乳幼児期に不顕性感染し,終生体内にとどまり潜伏感染する。免疫不全,特に細胞性免疫不全状態になると再活性化する。
胸部X線写真で地図状の,びまん性すりガラス陰影を認め,血中βDグルカンが上昇していた場合,PCPを疑う。喀痰や気管支肺胞洗浄液中にGrocott染色で囊子を確認できれば確定診断となる。CMVには抗体検査よりも抗原検査(アンチゲネミア)が一般的である。CMV抗原陽性好中球を定量的に検出する方法で,HRP-C7法とC10/11法がある。保険適用外だが,ウイルスゲノム定量測定は有用なモニタリング方法である。
PCPは,わが国の後天性免疫不全症候群(acquired immune deficiency syndrome:AIDS)患者の指標疾患として最多であり,60%に認められる。非HIV患者では血液悪性疾患,造血幹細胞/臓器移植後,ステロイドおよび免疫抑制薬,生物学的製剤の使用など,感染防御機能の低下が発症リスクとなる。非HIV患者では急速な経過をとるため,疑いの段階から治療を開始する。HIV患者,非HIV患者ともにスルファメトキサゾール/トリメトプリム(ST)合剤が第一選択薬として推奨されており,HIV患者の重症例ではステロイドの併用を行う。また,ヒト-ヒト感染が知られており,原則個室管理とする。
免疫正常者のCMV初感染は,無症状または伝染性単核球様症状を生じるが,臓器障害をきたすことは稀であり,通常,治療を必要としない。移植後CMV感染症の場合は,感染症を発症する前にアンチゲネミア検査などでウイルス量をモニタリングし,増加があれば先制治療(pre-emptive therapy)を行う。HIV患者では,定期的な眼底検査を実施し,CMV網膜炎の早期診断に努める。免疫不全患者では重症度に応じて,ガンシクロビル,バルガンシクロビル,ホスカルネットによる初期治療を数週間行い,症状が落ち着いた時点で,維持治療を行う場合が多い。国内未承認であるが,高用量免疫γグロブリンの併用も考慮する。妊婦が感染を生じた場合,胎児に先天性CMV感染を生じる可能性がある。したがって,妊娠中の女性で,伝染性単核球症様症状や胎児の状態からCMV感染が疑われる場合には,この時点で産婦人科医に相談する。
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