昨年の国際腎臓病学会(ISN)で報告されたランダム化試験“CREDENCE”では、2型糖尿病例に対する、SGLT2阻害薬による慢性腎臓病(CKD)増悪抑制作用が示された。すなわち、2次評価項目ではあるが、SGLT2阻害薬群における「末期腎不全・血清クレアチニン倍増・腎死」の対プラセボハザード比は0.66の有意低値だった(95%信頼区間:0.53-0.81)。
SGLT2阻害薬によるこのような腎保護作用はこれまで、「糸球体過剰濾過の改善」を介すると説明されるのが一般的だった。そのため、SGLT2阻害薬開始直後、推算糸球体濾過率(eGFR)は一過的に低下するが、それは糸球体過剰濾過改善のマーカーであり、したがってその後、eGFRは改善するというものである。事実、多くの臨床データもこの仮説を支持している。
しかし今回のADAで報告されたCREDENCE試験の後付け解析は、このような理解に疑問を投げかけているようだ。12日のセッションでHiddo L. Heerspink氏(グローニンゲン大学、オランダ)が報告した。
CREDENCE試験の対象は、CKD合併の2型糖尿病4401例である。全例、忍容最大用量のレニン・アンジオテンシン系阻害薬は服用している。これらをSGLT2阻害薬カナグリフロジン100mg/日群とプラセボ群にランダム化の上、二重盲検法で観察した結果、SGLT2阻害薬群では「末期腎不全・血清クレアチニン倍増・腎/心血管系死亡」リスクが相対的に30%、有意に低下していた。
今回、Heerspink氏が報告したのは、試験開始後13週間のeGFR変化幅と、その後の腎転帰との関係である。「著明低下」(10%超)、「軽度低下」(0~10% )、「上昇」の3群で比較した。SGLT2阻害薬群では、プラセボ群に比べ、「著明低下」例が多く(45% vs. 21%)、「上昇」例は少なかった(27% vs. 49%、いずれも検定なし)。
目を引いたのは、これら3群のその後のeGFR低下幅である。SGLT2阻害薬服用例では、「著明低下」、「軽度低下」、「上昇」群のいずれにおいても、その後およそ40カ月にわたるeGFRの低下幅はいずれも約2.0mL/分/1.73m2で、群間に有意差を認めなかった。プラセボ服用例も同様で、当初のeGFRの変化幅にかかわらず、その後のeGFR低下幅はいずれの群も、およそ4.5mL/分/1.73m2で、群間差は認められなかった。
「腎関連重篤イベント」、「急性腎傷害」、「高カリウム血症」を比較しても、SGLT2阻害薬群、プラセボ群ともこれらリスクは、服用開始直後のeGFR変化に有意な影響を受けていなかった(諸因子補正後)。
なおHeerspink氏は本研究の限界の1つとして、同一個人内でeGFR測定値のばらつきが大きかった点を挙げ、「著明低下」、「軽度低下」、「上昇」分類が必ずしも正確ではなかった可能性を指摘していた。
本試験は、Janssen Research and Developmentから資金提供を受けて実施された。