膀胱憩室とは,膀胱内腔粘膜が膀胱壁の筋層を脱出し膀胱壁外へ部分的に突出した状態である。組織学的に,膀胱憩室壁は粘膜・粘膜下層結合組織または固有層・薄い平滑筋の成分および外膜で構成されている。膀胱憩室の平滑筋は,一般的に形成が不十分で収縮機能が失われているため,残尿量の増加につながる1)。
膀胱憩室は先天性と後天性とにわけられる。先天性膀胱憩室は男児に多いことが知られており,排尿障害も肉柱形成もない平滑な膀胱にみられるもので,尿管口あるいは膀胱頸部近傍に1~2個認めることが多い。このことから,胎児期の尿管芽の膀胱への接合異常が関連しているものと考えられている2)。さらに先天性膀胱憩室は,①尿膜管性膀胱憩室,②特発性憩室,③傍尿管口憩室(Hutch憩室)に分類される。特発性憩室は,筋層の欠損あるいは脆弱性が原因と言われているが,筋層がしっかりしていても発生することがある3)。尿管裂孔部に認められる膀胱憩室はHutch憩室と呼ばれ,しばしば膀胱尿管逆流症(VUR)を伴い,自然治癒の傾向は少ないとされている。また,小児膀胱憩室の中でも先天性と二次性(後天性)に分類される。二次性の場合は後部尿道弁,尿道狭窄,尿管瘤に伴うものやEhlers-Danlos症候群,Williams症候群,Menkes kinky hair症候群,prune belly症候群などの様々な先天性疾患に併発することがある。大きな先天性膀胱憩室は,尿路感染症で見つかる場合が最も多いとされるが,膀胱頸部や尿道を圧迫して,排尿困難や尿閉の原因となることもある。
後天性膀胱憩室は,下部尿路通過障害や神経因性膀胱が原因となって生じることが多い。膀胱内圧が上昇した状態が持続することにより,膀胱壁に平滑筋の部分的肥厚による肉柱が形成され,その結果,膀胱筋層の欠損部あるいは脆弱部に膀胱憩室が発生する。そのため,先天性膀胱憩室と異なり,後天性膀胱憩室の多くは多発性である。後天性膀胱憩室は無症状で偶然見つかることが多いが,大きな憩室では二段排尿,尿勢低下,頻尿,残尿感などの自覚症状を生じ,また,残尿が原因と考えられる尿路感染症で発見されることもある。
超音波検査,排尿時膀胱尿道造影(VCUG)などの画像検査や膀胱鏡検査が有用である。VCUGでは下部尿路閉塞,膀胱尿管逆流(VUR)の存在や,排尿時の膀胱憩室の状態なども判断できる。CT,MRIは憩室の診断だけではなく,周囲組織との位置関係を把握することが可能である。膀胱鏡検査ではそれぞれの憩室の場所,粘膜異常や結石の有無を確認することが重要である。また,神経因性膀胱症例や下部尿路閉塞が原因の膀胱憩室症例に対しては,治療方針の決定にpressure-flow studyを含めたurodynamic studyを行うことが推奨される1)。
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