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透析中のショック症状の原因と回避法は?

No.5024 (2020年08月08日発行) P.52

鶴屋和彦  (奈良県立医科大学腎臓内科学教授)

登録日: 2020-08-11

最終更新日: 2020-08-04

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77歳,女性。身長150cm弱,体重40kg。腎硬化症と考えられる慢性腎不全で2016年12月1日より血液透析中(現在は週3回,4時間透析,血流量200mL/分)。普段の血圧は150~160/100~80mmHgで,アジルサルタン(アジルバ®)20mg1錠,ドキサゾシン(カルデナリン®)2mg1錠を内服しています。Hbは11.0〜9.8g/dLを推移しています。胸部X線で心胸郭比(cardiothoracic ratio:CTR)は45.0%でほぼ一定です。特に今まで大きな心疾患や不整脈を指摘されたことはありません。

1~2カ月に1回ほど,透析中,開始2時間くらい経過後,急に血圧が低下し(60~80mmHg),意識消失,無呼吸となりました。O2を投与しトレンデンブルグ体位などにより1~2分で意識は回復し,元気になります(透析前の体重は40~41.5kg,ドライウェイトは39.4kgくらい)。ショックの原因としては除水の速度などが関係していると考えています。また対策としてはドライウェイトがきつかったのかと判断し,ドライウェイトを0.2kgほど増やしたりするなど工夫はしていますが,それでもショックを起こします(除水量は1800~2000mL)。

原因究明のために必要な検査やショックを起こさないようにする方策があればご教示下さい。
(秋田県 F)


【回答】

 【最大要因は,循環血漿量の減少。透析法の工夫で回避可能】

透析中の血圧低下の最大要因は,循環血漿量の減少によるものです。まず,ドライウェイトの設定が適正かどうかを確認することが重要です。循環血漿量の減少が著明でないのに血圧が低下する場合,心機能障害を疑います。また,自律神経障害も原因となります。自律神経障害では,除水による循環血漿量減少に対して自律神経反射が生じず,血管が適切に収縮しないため,血圧低下が起こります。その他,低アルブミン血症や貧血なども低血圧の原因となります。

本例は,心疾患の既往や不整脈がなく,CTRも45.0%と拡大していないため,明らかな心機能障害はないように思われますが,心エコーで心機能や弁膜症の有無について確認するのは必要です。また,起立性低血圧の有無や心電図でCV-RRをチェックして,自律神経障害の有無をみておく必要があるでしょう。

明らかな心機能障害や自律神経障害がない場合,少し(とりあえず0.5kgくらい)ドライウェイトを上げて,血圧が安定するかどうかみるのがよいように思います。また,除水量(除水速度)は1800~2000mL(450~500mL/時)とそれほど多くありませんが,体重が40kgと少ないことを考慮すると,この程度の除水速度でも循環動態に影響する可能性があります。できるだけ体重増加を少なくするよう患者指導を行い,除水速度が減らせれば,血圧低下を予防できる可能性が高いと思われます。

本例は,開始2時間後くらいに血圧低下が起こるとのことですので,Naプロファイル法で透析前半のNa濃度を高めにしてみると効果的かもしれません。あるいは,ドロキシドパ(ドプス®)やアメジニウム(リズミック®)などの昇圧薬を透析開始時に内服してもらうのも,血圧および脳血流の保持に有効です1)

食事摂取により血圧低下をきたすことがあります。透析中に食事を摂っているのであれば,透析終了後に変更したほうがよいでしょう。また,降圧薬を服用していますが,透析前の服用は血圧低下を助長しますので避けましょう。

透析法を工夫することで血圧低下を防ぐことができます。透析液温を低下させること2),血液透析濾過法3),無酢酸透析4)などの方法が有効と言われています。その他に,L-カルニチン投与5)や透析中に両下腿を間欠的に圧迫する空気圧迫法(pneumatic compression)6)で,透析中の血圧低下を予防できることが報告されており,試してみる価値はあると思います。

【文献】

1) Fujisaki K, et al:Ther Apher Dial. 2007;11(1): 49-55.

2) Mustafa RA, et al:Clin J Am Soc Nephrol. 2016; 11(3):442-57.

3) Wang AY, et al:Am J Kidney Dis. 2014;63(6): 968-78.

4) Daimon S, et al:Ther Apher Dial. 2011;15(5): 460-5.

5) Ibarra-Sifuentes HR, et al:Ther Apher Dial. 2017; 21(5):459-64.

6) Álvares VRC, et al:Am J Nephrol. 2017;45(5): 409-16.

【回答者】

鶴屋和彦 奈良県立医科大学腎臓内科学教授

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