【最大要因は,循環血漿量の減少。透析法の工夫で回避可能】
透析中の血圧低下の最大要因は,循環血漿量の減少によるものです。まず,ドライウェイトの設定が適正かどうかを確認することが重要です。循環血漿量の減少が著明でないのに血圧が低下する場合,心機能障害を疑います。また,自律神経障害も原因となります。自律神経障害では,除水による循環血漿量減少に対して自律神経反射が生じず,血管が適切に収縮しないため,血圧低下が起こります。その他,低アルブミン血症や貧血なども低血圧の原因となります。
本例は,心疾患の既往や不整脈がなく,CTRも45.0%と拡大していないため,明らかな心機能障害はないように思われますが,心エコーで心機能や弁膜症の有無について確認するのは必要です。また,起立性低血圧の有無や心電図でCV-RRをチェックして,自律神経障害の有無をみておく必要があるでしょう。
明らかな心機能障害や自律神経障害がない場合,少し(とりあえず0.5kgくらい)ドライウェイトを上げて,血圧が安定するかどうかみるのがよいように思います。また,除水量(除水速度)は1800~2000mL(450~500mL/時)とそれほど多くありませんが,体重が40kgと少ないことを考慮すると,この程度の除水速度でも循環動態に影響する可能性があります。できるだけ体重増加を少なくするよう患者指導を行い,除水速度が減らせれば,血圧低下を予防できる可能性が高いと思われます。
本例は,開始2時間後くらいに血圧低下が起こるとのことですので,Naプロファイル法で透析前半のNa濃度を高めにしてみると効果的かもしれません。あるいは,ドロキシドパ(ドプス®)やアメジニウム(リズミック®)などの昇圧薬を透析開始時に内服してもらうのも,血圧および脳血流の保持に有効です1)。
食事摂取により血圧低下をきたすことがあります。透析中に食事を摂っているのであれば,透析終了後に変更したほうがよいでしょう。また,降圧薬を服用していますが,透析前の服用は血圧低下を助長しますので避けましょう。
透析法を工夫することで血圧低下を防ぐことができます。透析液温を低下させること2),血液透析濾過法3),無酢酸透析4)などの方法が有効と言われています。その他に,L-カルニチン投与5)や透析中に両下腿を間欠的に圧迫する空気圧迫法(pneumatic compression)6)で,透析中の血圧低下を予防できることが報告されており,試してみる価値はあると思います。
【文献】
1) Fujisaki K, et al:Ther Apher Dial. 2007;11(1): 49-55.
2) Mustafa RA, et al:Clin J Am Soc Nephrol. 2016; 11(3):442-57.
3) Wang AY, et al:Am J Kidney Dis. 2014;63(6): 968-78.
4) Daimon S, et al:Ther Apher Dial. 2011;15(5): 460-5.
5) Ibarra-Sifuentes HR, et al:Ther Apher Dial. 2017; 21(5):459-64.
6) Álvares VRC, et al:Am J Nephrol. 2017;45(5): 409-16.
【回答者】
鶴屋和彦 奈良県立医科大学腎臓内科学教授