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VEGF標的薬による血栓性微小血管症(TMA)

No.5025 (2020年08月15日発行) P.47

川上貴久  (杏林大学医学部付属病院 腎臓・リウマチ膠原病内科講師)

登録日: 2020-08-17

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 【血液検査・尿検査を定期的に行い,早期発見に努めることが肝要】

血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)は血管新生を司る重要な分子であり,発生,創傷治癒などに関わる一方で,悪性腫瘍の進展促進にも寄与するため,VEGFの作用を阻害する分子標的薬が抗癌剤として用いられる。抗VEGF抗体であるベバシズマブやVEGF受容体のチロシンキナーゼを阻害するスニチニブが代表的であり,それぞれ結腸癌,腎癌などに適応がある。しかし,VEGFの腎臓における生理的な作用が阻害されることで腎障害の副作用が起こりうるため,注意が必要である。

腎臓の濾過機構である糸球体の毛細血管は,血管内腔側から順に内皮細胞,基底膜,足細胞の三層構造で構成される。この構造の生理的な維持のためには,足細胞から分泌されるVEGFを内皮細胞が受容することが必須である。VEGF標的薬の投与によりこの機構が破綻すると,糸球体内皮細胞障害によって血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)が起こり,膜性増殖性糸球体腎炎様の糸球体病変を呈し,腎機能障害,蛋白尿,血尿などを発症する。TMAが全身性に起これば,血小板減少と破砕赤血球を伴う溶血性貧血を呈する。

以上から,VEGF標的薬を使用する際はTMAや腎障害が出現することがあるため,血液検査・尿検査を定期的に行い,早期発見に努めたい。

【解説】

川上貴久 杏林大学医学部付属病院 腎臓・リウマチ膠原病内科講師

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