肺血栓塞栓症の病態は,血栓による肺動脈の閉塞・狭窄により生じる。急性型(acute pulmonary thromboembolism:APTE)と慢性型にわけられ,後者は特に慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)として分類される。基本的に塞栓源は下肢および骨盤腔内の深部静脈血栓症であり,両疾患を合わせて静脈血栓塞栓症として扱われている1)。
APTEや血栓再発を繰り返す反復型CTEPH症例は,突然の呼吸困難,胸痛が主訴となる場合があり,再発が明らかでない潜伏型CTEPH症例では徐々に労作時呼吸困難が増強する。また,無症状の患者が存在する一方,診断が遅れたり治療が不十分なAPTE症例では,死亡率が30%に及ぶ。上記症状を呈する患者を診た場合,本症も鑑別診断として疑うことが重要であり,心電図,心エコー検査,肺機能検査で他の心肺疾患の鑑別を行うと同時に,胸部造影CTや肺血流シンチグラフィーにて診断する1)。
本症が,深部静脈血栓からの二次的合併症であるとの認識に基づき,血栓再発予防のための抗凝固療法,生じた血栓塞栓を溶かす血栓溶解療法が治療の主体となる。状況に応じて,遊離血栓を捕捉する非永久留置型下大静脈フィルター留置も考慮し,また広範型で最重症の循環虚脱・心肺停止例では,必要に応じて経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support:PCPS)の導入により呼吸循環不全を安定化させる。専門施設においては,外科的血栓摘除やカテーテルインターベンションも選択の対象となる1)。
CTEPHは,器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞・狭窄した病態であり,結果的に肺動脈圧上昇をきたす。その定義は,肺循環動態の異常および肺血流分布が6カ月以上変化しないこととされる。CTEPHでは,ワーファリン(ワルファリン)による半永久的な抗凝固療法を基本とする。治療のゴールは,肺動脈圧の正常化と換気血流不均衡改善による酸素化改善である。現状で両者を達成できる根治療法は肺血栓内膜摘除術のみで,バルーン肺動脈形成術では血行動態の改善は得られるが酸素化の改善は難しい。また,非手術適応例などでは,選択的肺血管拡張薬であるアデムパス®(リオシグアト)を使用するが,やはり酸素化改善効果は得がたい。これらの適応決定は容易でなく,基本的には特定の専門施設への紹介を考慮する1)。