涙囊炎は鼻涙管が狭窄,閉塞することにより,閉塞近位側に涙液や涙道内分泌物が貯留し,病原体が涙道へ迷入・定着,涙道内で増殖し,生体が攻撃・防御する状態をいう。
鼻涙管閉塞の原因は先天性と後天性に,病態は急性涙囊炎と慢性涙囊炎にわけられる。
先天鼻涙管閉塞は,鼻涙管尾側は出生頃に下鼻道外側壁に開口するが,生後も開口されていない状態をいう。後天鼻涙管閉塞は,顔面外傷,感染,非感染性炎症,副鼻腔疾患,腫瘍などで起こる場合もあるが,原因不明なことが多い。
流涙,眼脂を伴った涙囊部の腫脹が認められる。涙囊炎を起こした涙囊を圧迫すると,涙点から膿の逆流が認められる。急性涙囊炎の場合には,涙囊部の腫脹だけにとどまらず,周辺組織の蜂巣炎を伴う。
涙囊の感染症では,局所投与では薬剤濃度が維持されにくいと考えられ,抗菌薬(点眼薬)の組織移行は,かなり少ない可能性がある。急性涙囊炎では,周辺組織の蜂巣炎を伴っており,抗菌薬を全身投与する。局所投与としての点眼薬はどこまで効果があるか不明であるが,結膜炎等がある場合に短期間使用する。広く漫然とした抗菌薬の使用から,耐性菌検出の増加が認められるため,急性期のみの短期間使用とする。
成人の涙囊炎の主な原因菌として,涙囊炎から黄色ブドウ球菌75例,緑膿菌71例,肺炎球菌54例,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negative staphylococci:CNS)31例などが検出されたとの報告がある(1612例中337例検出)。また,先天鼻涙管閉塞の涙囊炎の原因菌としては,55症例58例(生後6カ月~5歳11カ月)において,肺炎球菌21株,レンサ球菌21株,インフルエンザ菌14株,Moraxella catarrhalis 5株が検出された(重複を含む)との報告がある(菌検出率96.5%)。
涙囊炎においては,耐性菌の検出率の増加,今までは起炎菌とされなかったコリネバクテリウムの検出の増加,眼科領域ではよく使用されるフルオロキノロンに対する耐性菌の検出の増加が認められる。涙囊炎の病原菌として注意すべき耐性菌には以下のものがある。β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(β-lactamase-negative, ampicillin-resistant Haemophilus influenzae:BLNAR),ペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptcoccus pneumoniae:PRSP),メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)である。BLNAR,PRSP,MRSAともにセフェム系抗菌薬の効果がない。
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