後腹膜腔とは,腸管を包む腹膜の後方,壁側腹膜と後腹壁の間のスペースである。腎臓・副腎・尿管とその周囲の軟部組織が存在する。膀胱や前立腺を含む骨盤内の腹膜外腔も含めることがある。後腹膜腫瘍は,その後腹膜腔の軟部組織に発生する腫瘤性病変である。悪性軟部肉腫(脂肪肉腫,平滑筋肉腫など)が代表的である。他の悪性腫瘍として悪性リンパ腫,胚細胞腫(精巣原発腫瘍の後腹膜リンパ節転移,あるいは性腺外原発)等がある。良性腫瘍では神経鞘腫や傍神経節腫(パラガングリオーマ)等がみられ,その他キャッスルマン病や後腹膜線維症(IgG4関連疾患)等がある。
後腹膜の悪性軟部肉腫の発生頻度は10万人に0.5~1人程度と稀である。組織型は脂肪肉腫(高分化型,脱分化型など)が約60%を占め,ついで平滑筋肉腫が約20%である1)2)。2013年にWHO組織分類が改訂され,それまで多数を占めていた悪性線維性組織球腫(MFH)の概念が消失し,未分化多型肉腫などに再分類された。
悪性軟部肉腫は膨張性・圧排性に増大し,腹痛や消化管閉塞症状などの自覚症状に乏しい。腫瘍径17~20cm(中央値)と診断時に既に巨大であることが多く1)2),その場合,触診でも腫瘤を触知できる。悪性リンパ腫では発熱・盗汗・体重減少などの全身症状を伴いうる。胚細胞腫は後腹膜にリンパ節転移をきたすが,患者が羞恥心のために原発巣である精巣腫大を申告しないことがある。重要なことは,医療者側が精巣腫瘍の可能性をまず念頭に置くことである。精巣に原発巣がない場合でも,性腺外原発胚細胞腫の可能性がある。
画像診断では造影CTの有用性が高い。腫瘍の局在・進展形式,内部の性状・脂肪成分の有無などを評価する。周囲組織への浸潤や,肉腫における粘液成分の評価にはMRIも有用である。腫瘍マーカーは,悪性リンパ腫では血清IL-2Rが上昇しうるが,特異的ではない。胚細胞腫では血清hCGやAFP値の上昇は診断的価値が高いが,低値であってもセミノーマ等の組織型を否定できない。確定診断と治療方針策定のために,針生検の実施が推奨される3)。
以下,悪性軟部肉腫について述べる。悪性リンパ腫や胚細胞腫については別稿を参照されたい。
原則は外科的切除であり,可能な限り完全切除をめざす3)。過半数の症例で周囲臓器の合併切除を要する(腎が最多,ほかに結腸,腸腰筋,脾臓など)1)2)。最も頻度が高い脂肪肉腫では,肉眼的に正常な脂肪織も高分化型成分の可能性があり,可及的にすべて摘出し,多くの場合腎摘除も行う。高分化型脂肪肉腫では腸間膜や十二指腸との剝離は容易であるが,脱分化型では剝離困難で,結腸などの合併切除を要することも多い。肉眼的に完全切除であれば,顕微鏡的に断端陽性でも,断端陰性と予後同等とされる2)。したがって,合併切除の範囲は,接する臓器や腫瘍の位置をよく検討し,どこまで機能を温存すべきか総合的な判断を要する3)。一方,肉眼的に断端陽性の場合,予後は不良である1)2)。
術前・中・後の放射線照射の意義は確立されていない。最近発表された無作為化比較試験では,術前照射のベネフィットは示されなかったが,脂肪肉腫に限れば局所再発率の低下が得られた。術前後の化学療法の追加は,後腹膜の軟部肉腫におけるエビデンスは乏しい。
肉眼的に完全切除でも,5年間で24~39%が局所再発を生じる1)2)。平滑筋肉腫では遠隔転移が多い。5年生存率は67~69%で,特に脱分化型脂肪肉腫や高異型度平滑筋肉腫の予後は不良である1)2)。
残り1,236文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する