【特異的遺伝子異常の同定が正確な診断に直結】
プレシジョン・メディシンとは,患者個人ごとに,副作用が少なく最適な治療方法を選択し,それを施すこと,とされる。そのためには,病理学的診断だけにとどまらず,最先端の技術を用いた遺伝子レベルでの解析が重要となる。
造血器腫瘍の診断は,他の悪性腫瘍と同様に腫瘍細胞を含む組織(骨髄・リンパ節など)を採取し,病理組織診断,細胞表面抗原,染色体の検査を行う。これらの情報をもとに診断名が確定される。近年になり,次世代シーケンサーが臨床検体の解析に応用され,遺伝子変異解析が行われるようになった。造血器腫瘍は100を超えるきわめて多数の疾患に細分類されている。診断に難渋する症例も多いため,疾患特異的な遺伝子異常の同定は正確な診断に直結する。造血器腫瘍のhot spot変異には疾患特異性が高いものがあり,診断困難な症例の診断補助として非常に有用であり,既に臨床応用されつつある。治療標的の選択として,機能獲得型の遺伝子変異,特に細胞増殖に関わるキナーゼに関しては阻害薬の開発が相次いでいる。今後も遺伝子変異情報をもとにした標的薬剤の開発が待たれる。
臨床的に有用性の高い染色体転座を含む遺伝子異常と,対応する造血器腫瘍,関連薬剤を,日本血液学会では「造血器腫瘍ゲノム検査ガイドライン」として公開している1)。将来的な造血器腫瘍におけるプレシジョン・メディシン実現の基盤となることが期待される。
【文献】
1) 日本血液学会:造血器腫瘍ゲノム検査ガイドライン. 2020. [http://www.jshem.or.jp/genomgl/]
【解説】
日下部 学 筑波大学医学医療系血液内科講師