慢性肺アスペルギルス症(CPA)は,器質的肺疾患を有する患者に発症する緩徐進行性の予後不良な疾患である
器質的肺疾患を有する患者では,アスペルギルス感染合併の可能性を考慮する必要がある
診断は,患者背景や臨床経過,胸部画像所見に加え,血清診断,培養検査,病理組織学的診断から総合的に行う
アスペルギルス属は土壌や塵埃,植物に広く生息する糸状真菌である。ヒトへの病原性を有する菌種として,Aspergillus fumigatusが最も多く,ほかにはA. niger,A. terreus,A. flavus,A. versicolorなどがある1)。近年では遺伝子学的検査の進歩に伴い,各Aspergillus sectionの代表的な種に形態上,非常に類似した菌種(関連種)の存在が明らかになっており,その一部の菌は抗真菌薬に耐性を示すことがある。
アスペルギルスは大気中を直径2~5μmの胞子として浮遊し,経気道的に吸入されヒトの体内へ侵入する。健常者であれば,気道粘膜や線毛運動による物理的排除機構や肺胞マクロファージを中心とする貪食細胞により排除され,感染は成立しない2)。しかし,陳旧性肺結核や気管支拡張症など肺の構造破壊があり,気道クリアランスが低下している場合や,ステロイド内服や糖尿病により免疫能の低下がある場合には,アスペルギルスの腐生性増殖をもたらし,慢性肺アスペルギルス症(chronic pulmonary aspergillosis:CPA)を発症する。
CPAは緩徐進行性で,5年生存率は約60%程度と予後の悪い疾患である3)。わが国ではCPAは,単純性肺アスペルギローマ(simple pulmonary aspergilloma:SPA)と慢性進行性肺アスペルギルス症(chronic progressive pulmonary aspergillosis:CPPA)から構成される(表1,図1)4)。CPPAはBinderら5)が提唱した組織侵襲を伴う病理学的に定義された慢性壊死性肺アスペルギルス症(chronic necrotizing pulmonary aspergillosis:CNPA)とDenningら6)が臨床的に提唱した慢性空洞性肺アスペルギルス症(chronic cavitary pulmonary aspergillosis:CCPA)を統合した疾患群である。双方の臨床的鑑別は困難であり,治療方針も変わらないため,わが国の「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014」4)や「アスペルギルス症の診断・治療ガイドライン2015」7)では,CPPAとしている。