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流行性角結膜炎[私の治療]

No.5041 (2020年12月05日発行) P.48

内尾英一 (福岡大学医学部眼科学教室教授)

登録日: 2020-12-03

最終更新日: 2020-12-01

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  • ウイルス性結膜炎はわが国では主としてアデノウイルス(AdV)が病因である。AdV結膜炎は感染力の強い急性結膜炎であり,流行性角結膜炎(epidemic keratoconjunctivitis:EKC)と咽頭結膜熱がある。型により,結膜炎の重症度に差がみられる。

    ▶診断のポイント

    EKCは潜伏期が7~10日で発症する。典型的なEKCでは急性濾胞性結膜炎,角膜上皮下混濁,耳前リンパ節腫脹がみられる。発症早期にはしばしば点状表層角膜症を生じ,時に結膜偽膜がみられる症例もある。臨床症状は発症後5~8日頃に最も強くなり,以後軽快する。多発性角膜上皮下浸潤は発症10日以降にみられる。急性出血性結膜炎(AHC)は,潜伏期は約1日で急激に発症する。片眼のみに発症した場合も翌日には両眼性となることが多い。球結膜出血は70~90%に出現する。

    AdV抗原の存在が証明されればAdV結膜炎と診断できる。迅速診断キットはすべてイムノクロマト法であり,広く行われている。陽性の場合はAdV感染と診断できるが,陰性の場合は必ずしも否定できない。近年,これまで綿棒で結膜擦過物を採取していた方法に変わり,濾紙で涙液を採取して検体とするイムノクロマト法が導入され,さらに増感法を併せて行うことによって,感度が98%に達し,かつ侵襲も少ない検査法として注目されている1)。polymerase-chain reaction(PCR)法2)は感度が高く,全ゲノム解析も可能で,型別判定も行えるが,保険適用はない。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    AdV結膜炎は2週間前後の経過で自然治癒傾向があるために,長く治療対象とはみられてこなかった。しかし,流涙,充血,異物感そして眼痛など,患者の様々な自覚症状は決して軽いものではなく,院内感染を生じると病棟閉鎖に至ることもある。一方,内科・小児科領域では,白血病などの骨髄移植に伴う免疫抑制状態でAdVによる肺炎や出血性膀胱炎のために死亡する症例があるため,抗ウイルス治療が模索されてきた。実際にcidofovirは骨髄移植後の症例に投与されているが,最近はプロドラッグのbrincidofovirがより有効と報告されている3)。しかし,現状ではAdVに対する特異的な抗微生物薬はなく,発症初期は,重複感染予防の目的で抗生物質ないし合成抗菌薬点眼で経過を観察し,広範な点状表層角膜症,結膜偽膜合併例にはステロイド点眼薬を投与する。ただし,初期の角膜病変から角膜ヘルペスをAdV結膜炎と見誤ることがあり,ステロイド点眼薬は慎重に用いる必要がある。

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