円錐角膜は,角膜の中央部よりやや下方が薄くなって円錐状に突出してくる非炎症性疾患で,その不規則な角膜形状により視力が低下する。一般に思春期の頃に発病し,多くは30歳ぐらいで進行は止まるが,40歳代で発病,進行するケースもある。多くは両眼性であるが,必ずしも両眼の程度は同じではなく,片眼が正常のこともある。
ケラトメータで,斜乱視,倒乱視がみられたときに円錐角膜を疑い,角膜形状解析検査を施行する。直乱視であっても,2.5D以上の角膜乱視があれば円錐角膜を疑い,角膜形状解析検査を施行する。角膜形状解析検査では,角膜前面および,角膜後面のinstantaneous radius表示,角膜厚のマップを診断に用いる。ただし,機種ごとに各マップの表示性能は異なる。角膜菲薄部位に角膜前後面の前方突出が確認できれば,確定診断となる。
原則としてハードコンタクトレンズ(HCL)を処方する。HCLを装用することにより,視力矯正効果だけではなく,病気の進行を遅くする効果が期待される。HCL単独では装用が困難な場合は,piggyback lens system〔ソフトコンタクトレンズ(SCL)をHCLの下に組み合わせて装用する〕で処方する。
HCLの種類(球面,多段カーブ),処方方法は,円錐角膜の角膜形状タイプ(ニップル,オーバル,グローバス,バタフライ,下方偏位),重症度によって異なる。円錐角膜だからといって,軽度の円錐角膜眼に対して多段カーブHCLは選択しない。多段カーブHCLのよい適応は,円錐部分の突出が強い中等度以上の円錐角膜眼である。軽度の円錐角膜眼に対して多段カーブHCLでは,角膜形状にパラレルに処方することはできず,球面HCLが適応となる。
ニップルタイプの円錐角膜は中等度~重度であっても,円錐部分の突出が全体の角膜形状のサジタルデプスに与える影響は非常に少ない。流通している円錐角膜用多段カーブHCLのベースカーブ領域に相当する中央部分の直径は5~6mmであり,ニップルタイプの円錐部分よりもかなり大きい。ニップルタイプの円錐角膜には,球面HCLがよい適応となる。
中等度~重度のオーバルタイプの円錐角膜眼に対しては,パラレルフィッティングという意味合いでは,多段カーブHCLがよい適応となる。しかし,球面HCLでも,2点接触法,3点接触法といった処方手法を用いれば,処方可能なことも多く,そちらのほうがよい矯正視力が得られやすい。多段カーブHCLの矯正視力が球面HCLに比べて劣る理由は,中長期のレンズ装用による角膜中央部後面におけるフラット化の効果が弱いことが影響していると考える。中等度のオーバルタイプに対しては,第一選択として球面HCL,レンズセンタリングが不安定であれば,多段カーブHCLを選択する。重度のオーバルタイプに対してはケース・バイ・ケースで,視力優先のケースは球面HCL,レンズの安定性や装用感を優先するケースは多段カーブHCLを第一選択とする。
中等度~重度のグローバスタイプは,円錐部分が大きいタイプである。このような眼では角膜の中間周辺部まで円錐の突出が及び,中間周辺部の角膜カーブもかなりスティープになる。結果として,角膜中央部と中間周辺部の差は小さくなる。球面HCL(2点接触法)が第一選択となる。球面HCLのフィッティングが不安定で装用が困難なケースの場合,当院では前眼部OCT CASIA®を利用して,レンズ後面の形状を角膜前面の形状にマッチさせたカスタムデザインの多段カーブHCLを処方している。
中等度~重度のバタフライタイプ,下方偏位タイプは第一選択として,レンズ径9.5mm前後の大きい球面HCLを2点接触法で処方する。レンズセンタリングが不安定な場合は,上眼瞼でレンズを保持する目的で,レンズの前面に溝(MZ)加工を行う。また,重度の下方偏位タイプで,下方の突出が強いために球面HCLでは安定した処方が得られない場合は,多段カーブHCLが適応となる。ただし,できるだけオプティカルゾーンが広い多段カーブHCLを選択しないと,複視やかすみが出現する。
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