拡張型心筋症とは,①左室のびまん性収縮障害と,②左室拡大を特徴とする症候群で,類似した疾患を除外したもの,と定義される。予後に多様性があり,薬物治療により心機能が改善しその後心不全を呈さない症例もあれば,初回心不全で既に治療抵抗性で心臓移植適応となる症例もある。
冠動脈異常を伴わない心拡大と左室収縮能低下症例を診た場合,原因となる基礎疾患のうち頻脈誘発性心筋症など治療法があるものを急ぎ鑑別する。そのために,まず問診を丁寧にとる。拡張型心筋症に特異的な症状はない。労作時呼吸困難や浮腫などうっ血症状,進行した場合には全身倦怠感など低心拍出症候群を呈する。また,無症状のことも多い。不整脈による動悸,ふらつきや失神もきたし,突然死も稀ではない。身体所見では,左房圧上昇に伴いⅢ音,Ⅳ音,肺野での水泡音などが聴取されることがある。その他,一般的なうっ血所見,低心拍出所見を見逃さない。さらに,心電図,胸部X線写真,血液検査に加え,心エコー図検査,心筋シンチグラフィー,MRI,心筋生検などが必要となる。よって,初診にて拡張型心筋症を疑った場合は,専門病院にコンサルトすべきである。
二次性心筋症が否定された場合,特異的な治療は存在せず,一般的な心不全治療をガイドラインに沿って行う。
左室収縮能が低下し心拡大を呈しても症状がない症例でも,心筋保護の目的でアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,β遮断薬を用いて神経体液性因子の不活化を行う。心不全症状が出現した場合,症状軽減のためミネラルコルチコイド受容体拮抗薬とともに,適宜利尿薬を用いる。低心拍出症候群がコントロールできない場合は,経口強心薬の投与も考慮する。
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