膠原病性肺動脈性肺高血圧症は,膠原病に伴い肺細動脈レベルでの肺血管の攣縮やリモデリングが起こる肺高血圧症である。膠原病としては主に強皮症,全身性エリテマトーデス(SLE),混合性結合組織病(MCTD),シェーグレン症候群等が挙げられる。肺高血圧症としては,基本的に前毛細血管性肺高血圧症を呈し,他の肺高血圧症および他の肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)を除外した上での診断となる。
膠原病患者における息切れ等の自覚症状には,PAHの合併に注意が必要である。特に強皮症において罹病期間>3年,肺拡散能<60%では確率が高くなることが,DETECT studyのアルゴリズムで報告されている1)。
膠原病性PAHは,肺高血圧症分類の1群に分類されるPAHのひとつである。まず酸素投与や利尿薬投与などの支持療法を行う。そして,特異的に肺動脈拡張をターゲットとした治療薬の使用を検討する。現在国内でPAHに対して適応がある薬剤には,①3つの血管収縮拡張に関連したシグナル経路(プロスタサイクリン経路,エンドセリン経路,NO-sGC-cGMP経路)に対するプロスタサイクリン系薬,②エンドセリン受容体拮抗薬(endothelin receptor antagonist),③ホスホジエステラーゼ5阻害薬(phosphodiesterase 5 inhibitor),④可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬(sGC刺激薬)の4種類がある。これらの薬剤は,それぞれの作用により肺動脈の血管内皮および平滑筋に働いて,主に肺血管拡張作用をもたらす。各薬剤に利点,副作用があり,注意して使用する必要がある。通常,PAHの重症度リスクに応じて軽,中等,高と分類し,これらの薬剤の治療選択を考えることがガイドラインで推奨されている2)。最新の治療アルゴリズムでは,基本的にはリスクに応じた初期からの特異的治療薬の併用療法が推奨されており,次項「治療の実際」に示すように特殊な場合のみ,単剤からの開始が推奨されている。
膠原病性PAHが他のPAHと治療において大きく異なる点は,免疫抑制薬の使用である。特にSLE,MCTDといった膠原病に伴うPAHは,自己免疫や炎症を基盤とした病態が肺血管にあり,免疫抑制薬が効果を示す場合がある。治療としては,ステロイド療法とシクロホスファミド間欠静脈注射療法の両方による寛解導入が行われる。しかし,免疫抑制薬が必ずしも奏効しない場合もあり,PAHの特異的治療薬と組み合わせた治療が必要である。強皮症では,通常,免疫抑制薬の効果は乏しく使用しないことが多い。膠原病に対する免疫抑制薬の使用に関しては,本稿の内容を超えるため記載しない。以下に3経路の薬剤を示す。
プロスタサイクリン経路の薬剤であり,半減期が短く投与経路として静脈,皮下,吸入,内服がある。頭痛,ほてり等の副作用がみられることがあり,少量から開始し増量することが推奨される。エポプロステノールは静脈治療薬であり,強力な血管拡張作用を持ち,用量依存性に肺血管抵抗を低下させる。在宅植込み型カテーテル留置に伴う感染等の問題がある。副作用としては頭痛,潮紅,下顎痛,関節痛,血小板減少などがある。
エンドセリンABデュアル受容体拮抗薬であるボセンタン,マシテンタンとエンドセリンA受容体拮抗薬のアンブリセンタンが使用可能である。ボセンタンは肝機能障害を認めることがあり,アンブリセンタンは肝機能障害が少なく,CYP系代謝薬剤との相互作用が少ないが,浮腫や間質性肺炎の悪化の恐れがある。
PDE-5阻害薬では,シルデナフィルとタダラフィルの2種類の経口薬が使用可能である。主な副作用は頭痛,潮紅などである。硝酸薬との併用は過度の血圧低下の可能性があり,禁忌である。sGC刺激薬の副作用としては血圧低下,頭痛などがある。PDE-5阻害薬との併用は,過度な血圧低下の恐れがあり,禁忌となっている。
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