No.4807 (2016年06月11日発行) P.15
長尾和宏 (長尾クリニック)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-01-24
患者さんによく聞かれる質問がある。「先生、この降圧剤は死ぬまで飲むのですか?」。昔は「一生、飲むことになるでしょう」とあいまいに答えていたが、10年くらい前からは「必ずやめる時が来ますよ。あくまで期間限定」と答えるようになった。降圧剤のメーカーが主催する勉強会で高血圧の著名な専門家に開業医が同じ質問をしていた。ある専門家は「一生飲みます」と明言された。別の専門家は「私は一生飲むものだとずっと思っていたが、最近もしかしたら“やめどき”があるのではないかと考えるようになった」と答えた。私は内心、「そんなの当たり前だろう」と思ったが、降圧剤に“やめどき”という概念自体がまだないことが確認できた。
同様に、「このインスリン、死ぬまで打つの?」とか、「この認知症の薬は胃ろうになっても入れるの?」という質問を患者さんのみならずコメディカルや介護スタッフからも問われることが増えた。私は「やめどきがあります」と答えている。しかし、医療界には「治療の引き際、やめどき」という概念がまだほとんどない。
「こうなればやめてもいい。さらにこうなれば必ずやめるべきだ」という具体的な指針があれば、医師も国民も助かるのではないか。今春の診療報酬改定では2剤減薬すると点数(薬剤総合評価調整管理料)がついたが、どんな基準でそうしたほうがいいのか、という根拠もしっかり示さないと、まず減薬ありきでは患者さんは納得されない。反対に医療不信を招くかもしれない。そもそも始めるのは簡単だがやめることは困難だ。医療もしかり、趣味もしかり、人によっては結婚や恋愛もしかりである。
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