常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は,両側の腎臓に多数の嚢胞が進行性に発症・増大し,60歳までに約半数が末期腎不全に至る最も多い遺伝性腎疾患であり,高血圧,多発肝嚢胞,脳動脈瘤,心臓弁膜症,尿管結石などの腎外病変を合併することが多い。
ADPKDの診断基準に従い,(1)家族内発生が確認されている場合には,①超音波断層像で両腎に嚢胞が各々3個以上確認されるもの,②CT,MRIでは両腎に嚢胞が各々5個以上確認されるもの,(2)家族内発生が確認されていない場合には,①15歳以下ではCT,MRIで両腎に嚢胞が各々3個以上確認され,②16歳以上ではCT,MRIで両腎に嚢胞が各々5個以上確認され,それぞれ多発性単純性腎嚢胞,尿細管性アシドーシスなどが除外されることで診断する。
ADPKDの進行を抑制する治療薬として,バソプレシンV2受容体拮抗薬のサムスカ®(トルバプタン)を使用する。適応は両腎容積が750mL以上かつ,腎容積増大速度がおおむね5%/年以上の場合である。副作用として強い水利尿作用があるため,多尿,口渇などの副作用があり,飲水の指導を行う。また,約5%に肝機能障害が出現する。投与開始時には入院が必要であり,月1回の外来受診で肝機能障害,高ナトリウム血症などの副作用を必ず確認し,肝機能障害が出現した場合には,トルバプタンは中止すべきである。
高血圧は若年発症で,腎機能が低下する前から認められることが多い。降圧治療として,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬もしくはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は末期腎不全の進展抑制効果や蛋白尿抑制効果が期待されるため,積極的に使用する。降圧目標は慢性腎臓病(CKD)に準じて血圧140/90mmHg未満,50歳未満でeGFR>60mL/分/1.73m2で,忍容性がある患者に限って,血圧110/75mmHg未満の厳格な降圧療法を実施する。
脳動脈瘤はADPKD患者に,ADPKD以外の患者と比較して高率に合併する。脳動脈瘤の破裂は生命予後に大きく影響するため,MRアンギオグラフィによって3~5年ごとにスクリーニングを行う。
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