SGLT2阻害薬による腎転帰改善作用は、対象がアルブミン尿陽性例であれば、2型糖尿病(DM)合併の有無を問わず報告されている [CREDENCE、DAPA-CKD]。しかしいずれも対象の平均年齢は65歳未満であり、高齢者に対する腎保護作用は必ずしも明らかでなかった。
そこで滋賀医科大学の北岡かおり氏らは、75歳以上の2型DM例に対するSGLT2阻害薬の腎保護作用を、わが国における観察研究で検討した。その結果、蛋白尿「陽性」であればこれら高齢者でも、SGLT2阻害薬は腎保護作用を持つ可能性が示された。この結果は5月30日、BMJ Open Diabetes Res Care誌に掲載された。
今回解析対象とされたのは、75歳以上でSGLT2阻害薬を開始した368例とその他血糖降下薬開始の899例である。直近1年間に血糖降下薬使用歴のある例は除外、同様に血糖降下薬が適応外使用されていた例も除外されている。いずれも日本の21大学病院から登録された。
これら1267例から傾向スコア(PS)で背景をマッチさせたSGLT2阻害薬群、その他血糖降下薬群(いずれも348例)を抽出し、開始後の推算糸球体濾過率(eGFR)の変化(1次評価項目)を比較した。
・背景
PSマッチ後の平均年齢は77.7歳、39.4%が女性、HbA1c平均値は7.7%だった。
eGFR平均値は「59.3」mL/分/1.73m2、42.8%が「<60」だった。なお血糖降下薬開始前のeGFR低下速度は、両群間に大きな差を認めなかった。また33.3%に蛋白尿を認めた。腎保護薬は、ACE阻害薬・ARBを58.8%が服用していた。
・腎機能(1次評価項目)
平均約30カ月の観察期間中、eGFRの低下幅はSGLT2阻害薬群で他血糖降下薬群に比べ、有意に小さかった(年間「0.80 vs. 1.78 mL/分/1.73m2。群間差:0.99 mL/分/1.73m2 [95%CI:0.5-1.38])。なおSGLT2阻害薬群のeGFRは、開始後に急速低下し、5カ月後に他血糖降下薬群と同等まで回復。以降は比較的維持されたまま推移した(initial dip)。
・亜集団解析
血糖降下薬開始時「蛋白尿」の有無で分けると、「陽性」群(144例)ではSGLT2阻害薬群におけるeGFR低下幅が他血糖降下薬群よりも有意に小さかった(年間0.55 vs. 2.73 mL/分/1.73m2)。
一方、尿蛋白「陰性」群(289例)では、両群のeGFR低下幅は有意差とならなかった(同:0.91 vs. 1.29、交互作用P<0.001)。
海外のランダム化比較試験が報告したSGLT2阻害薬による腎への好影響は、わが国の高齢DM性腎臓病例にも当てはまるのではないかと北岡氏らは考察している。
本研究はアストラゼネカ株式会社、ならびに厚生労働省と日本医療研究開発機構から資金提供を受けた。