熱性けいれん(febrile seizures:FS)は,主に生後6~60カ月の乳幼児期に起こる,通常は38℃以上の発熱に伴う発作性疾患である。治療で重要な点は,基本的には良性疾患である旨を保護者に説明することである。
発熱に伴い眼球上転,左右対称性の四肢強直間代発作等が起こる。
髄膜炎などの中枢神経感染症,代謝異常,その他の明らかな発作の原因がみられないもので,てんかんの既往のあるものは除外される。
以下の3項目のうち1つ以上を持つものを複雑型熱性けいれん(complex FS:CFS)と定義し,このいずれにも該当しないものを単純型熱性けいれん(simple FS:SFS)とする。
①焦点性発作(部分発作)の要素,②15分以上持続する発作,③一発熱機会内の,通常は24時間以内に複数回反復する発作
FSの治療は,急性期の初期対応と,その後の中長期的な対策とにわけられる1)2)。
初期対応では,止まっていない発作に対しては迅速に止痙することを最優先とする。一方,本疾患は上述のように基本は良性疾患で,かつ救急で出会う頻度の高い疾患である。典型的なSFSと判断ができ,既にけいれんが停止している場合,覚醒を確認できれば,基本的には血液検査,髄液検査,頭部画像検査はルーチンで行う必要性はないとされる。
FSの重積は30分以上の持続と定義されているが,実際の現場では発作が5分以上持続する場合に静脈注射で止痙する,もしくは二次救急病院に搬送する。
最も重要な鑑別診断である中枢神経疾患や重症細菌感染症については,以下のような場合に疑い,精査を考慮する。①髄膜刺激症状や大泉門膨隆など,重症を示唆する所見があるとき,②全身状態不良などにより重症感染症を疑うとき,③けいれん後の意識障害が遷延するとき,である。また,脱水を疑う場合には血液検査を行う。そして,血液検査を行う際には,必ず血液培養をセットで行う。頭部画像検査については上記のほか,発達遅滞などの神経学的異常がある場合,焦点性発作や発作後の麻痺を認める場合,15分以上の発作の場合に考慮する。
けいれん頓挫後,反復発作予防目的のジアゼパム坐薬投与は,ルーチンではないが地域の救急体制,アクセス,家族の不安を考慮して総合的に判断する。止痙に静脈注射を要する場合,髄膜刺激症状や意識障害,脱水があるとき,一発熱機会にけいれんを繰り返すときには入院管理を原則とする。
中長期的な対策として,検査,予防,疾患理解がある。いちばん問題になるのは,脳波検査の必要性についてである。SFSについては,頻回再発例であっても,脳波異常所見が見つかった場合に将来のてんかん発症との関連性が証明されておらず,治療方針に影響しない上に本人と親の心配を増すだけとされており,脳波検査は勧められない。
次にFSの予防について述べる。SFSは予後良好であり,副作用を考慮し,一般には発熱時のジアゼパム坐薬の予防投与は推奨されない。特に遷延性発作を予防する目的で,新ガイドラインでは発熱時のジアゼパム投与適応基準として,以下の項目を挙げている1)。
(1)遷延性発作(持続時間15分以上),または(2)次の①~⑥のうち,2つ以上を満たしたFSが2回以上反復した場合〔①焦点性発作(部分発作)または24時間以内に反復する,②FS出現前より存在する神経学的異常,発達遅滞,③FSまたはてんかんの家族歴,④12カ月未満,⑤発熱後1時間未満での発作,⑥38℃未満での発作〕
抗てんかん薬の継続投与は原則推奨されない。ジアゼパム坐薬による予防を行ったにもかかわらず遷延性発作がある場合や,発作を頻回に繰り返す場合に考慮する。
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