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特集:慢性腎臓病患者の貧血管理─腎性貧血治療の新展開

No.5060 (2021年04月17日発行) P.18

永山 泉 (埼玉医科大学総合医療センター腎・高血圧内科)

前嶋明人 (埼玉医科大学総合医療センター腎・高血圧内科教授)

登録日: 2021-04-16

最終更新日: 2021-04-15

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永山 泉
2012年信州大学医学部卒業。自治医科大学腎臓内科を経て,20年10月より埼玉医科大学総合医療センター腎・高血圧内科(大学院)。

前嶋明人
1994年群馬大学医学部卒業。UCSD博士研究員,群馬大学腎臓リウマチ内科,自治医科大学腎臓
内科准教授を経て,2020年9月より現職。

1 慢性腎臓病(CKD)とは
・CKDとは,腎臓が障害されている状態,または腎機能が低下している状態(GFR<60mL/分/1.73m2)が3カ月以上持続している病態を広く包括する疾患概念である。
・CKDの原因は,生活習慣病(高血圧,糖尿病など)や慢性糸球体腎炎,遺伝性腎疾患,加齢,薬剤など様々である。
・わが国のCKD患者数は約1330万人(成人の8人に1人が該当)と推定されており,年々増加傾向にあることから「新たな国民病」として認識されつつある。
・大規模臨床試験によりCKDは末期腎不全のみならず,脳卒中や心筋梗塞といった心血管イベントを発症するリスクが高いことが判明している。
・CKDは血液および尿検査により診断は容易であり,予防と治療が可能である。

2 腎性貧血の診断
(1)腎臓とエリスロポエチン(EPO)
・EPOは赤血球産生を誘導する造血ホルモンである。
・EPOは腎尿細管間質に存在する一部の線維芽細胞から産生される。
・EPOは組織の低酸素に応答して産生され,骨髄の赤芽球系前駆細胞に作用して,赤血球造血を亢進する。
・腎臓におけるEPO産生能は,腎障害の進行(腎機能低下)とともに低下する。
2)腎性貧血の診断
・腎性貧血の主因は腎障害に伴うEPOの産生低下であり,これ以外に貧血の原因(特に鉄欠乏性貧血など)が認められない時に診断される。

3 腎性貧血の治療─ESA
・腎性貧血の治療は,CKDの進展抑止およびCKDに伴う様々な合併症予防・治療に有効である。
・赤血球造血刺激因子製剤(ESA)を用いて,ヘモグロビン値を至適範囲内に維持する。
・成人の保存期CKD患者の場合,ヘモグロビン値「11g/dL未満」となった時点で腎性貧血治療を開始し,目標ヘモグロビン値「11g/dL以上13g/dL未満」を維持すべきであることが提案されている。
・CKD患者における貧血治療では鉄欠乏の評価とそれに基づく適切な鉄補充が重要である。
・ESA抵抗性の原因となる病態の検索および是正に努めて,ESA投与量が過剰にならないよう注意する。

4 腎性貧血の治療─HIF-PH阻害薬
(1)低酸素誘導因子(HIF)とEPO産生
・腎臓におけるEPO産生は,HIFによって転写調節を受けている。一方,HIFはプロリン水酸化酵素(PH)という酵素を介して分解される。
・HIFを介した低酸素応答メカニズムを解明したGregg L. Semenza,Peter J. Ratcliffe,William G. Kaelin Jr.の3者は2019年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。
(2)腎性貧血に対する新たな治療薬
・2019年9月,このメカニズムを応用した,腎性貧血に対する新規経口治療薬として,最初のHIF-PH阻害薬(ロキサデュスタット)が製造・販売承認された。2021年1月時点でロキサデュスタット,バダデュスタット,ダプロデュスタット,エナロデュスタット,モリデュスタットの5薬剤が製造・販売承認となっている。
・HIF-PH阻害薬は,PHを阻害してHIFを安定化させ,体内でのEPO遺伝子転写を誘導することにより赤血球造血を促し,腎性貧血改善効果を発揮する。
・ESA(注射製剤)とHIF-PH阻害薬(経口薬)の選択については,作用機序および投与方法が異なるため,個々の患者の状態や嗜好,通院頻度,ポリファーマシーや服薬アドヒアランスなどに応じて判断する。

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