リドル(Liddle)症候群(Liddle’s syndrome)とは,アルドステロンが過剰のような臨床像,つまり,ナトリウム(Na)貯留に伴う高血圧,低カリウム(K)血症,代謝性アルカローシスを生じるものの,レニン・アルドステロン系は抑制されているという特徴を持つ疾患であり,上皮性NaチャネルENaCの活性亢進の変異がその原因である。ENaCとは腎臓の遠位尿細管と集合管に存在し,Na再吸収を担うチャネル蛋白である。リドル(Liddle)症候群ではNa再吸収が亢進して細胞外液量が増加し,高血圧をきたすとともに,レニン・アルドステロン系は抑制される。また,尿細管腔内からのNa再吸収亢進により尿細管腔内の電位が負に傾き,電気的勾配が働いて細胞内からKとプロトンが分泌され,低カリウム血症と代謝性アルカローシスを生じる。
思春期以降に低カリウム血症による症状(しびれ感,筋力低下など)や高血圧で発見されることが多い。常染色体優性遺伝である1)。若年発症(10歳代)の家族性高血圧,低カリウム血症,代謝性アルカローシスを認めたときに本疾患を考える。なお,ENaCのde novo mutationによる孤発例もある2)。このため,家族歴がない場合においても,このような電解質異常を生じている場合には念頭に置く必要がある。
リドル(Liddle)症候群だけでなく,低カリウム血症を伴う二次性高血圧は多い。しかし,レニン・アルドステロン系が抑制されていることと,副腎皮質機能が正常であることを確認できれば,他の二次性高血圧を否定できる。原発性アルドステロン症(primary aldosteronism:PA)とグルココルチコイド反応性アルドステロン症(glucocorticoid-remediable aldosteronism:GRA)ではアルドステロン高値であり,腎血管性高血圧ではレニン高値であり,クッシング症候群ではコルチゾール高値である。甘草誘発性偽性アルドステロン症とAME(apparent mineralocorticoid excess)症候群はともに低レニン・低アルドステロンであるが,偽性アルドステロン症では甘草が11 β HSD(hydroxysteroid dehydrogenase)を阻害し,AME症候群では11 β HSDの遺伝子欠損のため,尿中コルチゾール代謝物,つまり遊離cortisol/遊離cortisone(UFF/UFE)比の高値を認める。なお,偽性アルドステロン症は薬剤摂取歴の聴取が診断につながることが多く,AME症候群はリドル(Liddle)症候群より若年発症で,3歳頃までに高度高血圧,体重増加不良で発見されることが多い。
また,上記の低カリウム血症を伴う二次性高血圧疾患群においては,ミネラルコルチコイド拮抗薬(スピロノラクトンなど)が有効であるものが多いが,リドル(Liddle)症候群ではミネラルコルチコイド拮抗薬が無効であり,ENaCを阻害するトリアムテレンが著効することでも診断につながる。
確定診断はENaCの遺伝子変異を示すことによる。変異のホットスポットであるENaCのβまたはγサブユニットのC末にあるPYモチーフを中心に調べる。リドル(Liddle)症候群ではPYモチーフの変異によりENaCの細胞膜から細胞内への輸送が阻害されて,細胞膜上のENaC分子が増えることでNaの取り込みが増大し,高血圧をきたしている。
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