「子どもがよく倒れるのです」と,自分よりも大きい子どもと受診する親がいる。家で倒れる現場を目撃したり,学校で倒れて頭を打ったりしていると,親は悪い病気ではないかと動揺し,時に精密検査を熱望してくる。一方,子どもは倒れた記憶もあいまい,加えて反抗期のためか,親と一緒では診察室でろくに口も開かない。勢い「とりあえず検査をしてみましょう」となってしまう。血液検査,X線,脳波,心電図,MRI,場合によってはホルター心電図にビデオ脳波,揚げ句の果てに心カテ電気生理検査までやれば医療費も跳ね上がる。「結果はどこも悪くありません」という説明に納得しない親なら,さらに高度先進医療の検査を繰り返す。そのようなケースを経験した読者もいるだろう。親の心配もよくわかるし,検査を繰り返した担当医の困惑もわかる。
このような厄介な事態を避けるにはどうしたらよいのだろうか。思春期失神の原因として,てんかんなどの神経疾患や不整脈をはじめとした心臓疾患など,重篤な基礎疾患は絶対に見落とせないが,その頻度はそれぞれ9%,2%と少ない1)。80%は反射性失神であり2),起立性調節障害(orthostatic dysregulation:OD)に伴う血管迷走性失神や,暑気,咳,注射などの痛み刺激によって誘発される状況性失神が含まれ,ODの頻度が圧倒的に多い。ODには失神以外に朝起き不良,寝つきの悪さ,頭痛,動悸など様々な症状があり,それらを把握している親は1/3にすぎない。そうであれば,診察室でムスッとしている思春期の子どもから聞き出すしかない。ここは親に席を外してもらい子どもに問診しよう。丁寧に優しく。親がいなければ,案外,素直に答えてくれるものである。OD症状の2つ3つもあれば,親子に説明して起立試験を実施しよう。
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