下痢症の定義は,「24時間当たりの通常の排便回数よりも軟便・水様便が3回以上増加している状態」である。急性下痢症の多くは感染症が原因である。その多くが対症療法のみで軽快するため,検査や抗菌薬を必要とする例は限られる。初期治療においては,①脱水の評価と補正,②検査・治療が必要な患者の選別,がポイントとなる。急性下痢症は,症候から「小腸型」と「大腸型」にわけると治療方針がたてやすい。アナフィラキシー症状としての下痢を見逃さない。
「大腸型」か「小腸型」か:「大腸型」は腸管粘膜が破壊され,腹痛,発熱,粘血便を伴うことが多く,サルモネラ,赤痢菌,腸管侵襲性大腸菌,Clostridium difficileなどが主な原因である。「小腸型」は毒素やウイルスによる腸管分泌促進の病態を呈し,腸管粘膜破壊がないため発熱や腹痛はあっても軽度であり,多量の水様便を伴う。また,エルシニア菌,カンピロバクター,腸炎ビブリオは「混合型(大腸型+小腸型)」の症状を呈することがある。小腸型のうち,下痢に比べて悪心・嘔吐の症状が強いものが「急性胃腸炎型」で,ウイルス(ノロウイルスやロタウイルスなど)もしくは毒素型の食中毒(黄色ブドウ球菌やセレウス菌など)が原因のことが多い。
食事歴と発症までの時間:病原微生物の同定に有用である。黄色ブドウ球菌(おにぎりや弁当)は潜伏期が1~6時間と短い。アナフィラキシーは原因物質の摂取後数分~数時間で消化器症状が出現する。アレルギー歴,皮疹や呼吸器症状などの随伴症状が診断の手がかりとなる。
海外渡航歴:旅行者下痢症(定義:旅行中,あるいは帰国10日以内に,1日3回以上の下痢)の多くは水・食料からの感染である。50%は毒素原性大腸菌が原因であり,数日で自然軽快する。病原微生物以外にも水の硬度(日本は軟水),油や香辛料,環境変化によるストレスが原因となることもある。
薬剤内服歴:薬剤性の下痢,偽膜性腸炎(抗菌薬)を鑑別する。
性的嗜好:男性同性愛者では,HIV感染症や赤痢アメーバなどを考慮する。
菌血症のリスク:CD4陽性リンパ球数低値のHIV感染症患者,ステロイド・免疫抑制薬投与中など,細胞性免疫が抑制された状態などでは菌血症のリスクが高い。
ABCの評価。ショックの有無(脈拍,血圧),意識レベル,発熱の有無を評価。重度脱水,sepsisを示唆する所見(qSOFA:呼吸数≧22/分,意識障害,SBP≦100mmHg)に注意する。
口腔粘膜乾燥,皮膚ツルゴール低下は脱水を示唆する所見。腹部診察(腹膜刺激症状),皮疹の有無(アナフィラキシー,薬剤性,ウイルス感染など),直腸診(血便・粘血便)。
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