胸部外傷は心破裂や胸部大血管損傷などによりしばしば致命的となるが,胸部外傷患者の多くは手術治療を必要としない。受傷後数時間で致命的となりうる胸部外傷として,気道閉塞,緊張性気胸,血胸,心タンポナーデなどが挙げられ,これら損傷を早期に診断・除外することが重要である。
手術が必要となった場合には,想定される損傷,手術操作で損傷部位に到達するまでの時間,患者の循環動態などを考慮して,開胸の方法を注意深く決定する。
鈍的外傷なのか穿通性外傷なのかを聴取する。詳細な受傷機転の聴取は,胸部外傷の診断,治療方針の決定にはあまり影響しない。既往歴,服薬歴,アレルギー歴,最終飲食や飲酒の有無の聴取は,致命的な胸部外傷の有無を確認した後に行う。
ショック状態であるかの判断が最優先である。収縮期血圧が90mmHg以上あることを理由に循環動態が安定していると判断することは,特に外傷患者では危険である。不穏,不安,攻撃的な態度や,顔面皮膚の蒼白,冷汗などはショックの症状であり,これらを見落とさない。
ショックの原因のほとんどが出血による低容量性ショックである。緊張性気胸や心タンポナーデなどの閉塞性ショックの存在は,併存する損傷に起因する出血性ショックの併存を否定できない。大量輸血も常に考慮する。
致命的な胸部外傷の検索を優先して身体診察を行う。発語があることだけで,気道開通を診断することは危険である。頸部の穿通性外傷や血腫の存在も確認する。
胸郭の呼吸性変動や安定性,皮下気腫,気管偏位,呼吸音,心音,頸静脈怒張を診察する。胸部の穿通性外傷に対する深さや創路の確認を目的とした外科的探索は,医原性の気胸や血胸を引き起こすため,行わない。穿通性外傷の場合は,背面を含めた体表すべての創の位置と数を確認する。診察で緊張性気胸を判断した場合は,胸腔ドレーンを挿入する。細い針による緊急脱気の有効性は乏しいことに注意する。
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