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放射線被ばく[私の治療]

No.5062 (2021年05月01日発行) P.84

長谷川有史 (福島県立医科大学医学部放射線災害医療学講座教授)

登録日: 2021-05-03

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  • 全身に1Gy(グレイ)以上の急性放射線被ばくを受けた場合,DNA損傷による細胞死が原因で多臓器不全(MOF)をきたす可能性がある。急性放射線症候群(acute radiation syndrome:ARS)と呼ばれ,線量依存性に造血器・消化器・中枢神経系などで多彩な臓器不全症状を呈するため経過観察・処置を要する。放射線被ばくのみでは,たとえ高線量であっても緊急には生命危機をきたしにくいという点である。そのため,傷病者が他の緊急性を有する病態を合併する場合はそれらへの対処を優先する。
    被ばくが局所で,障害臓器が皮膚のみの場合を,局所放射線障害(localized radiation injury:LRI)と呼ぶ。

    ▶病歴聴取のポイント

    被ばく後6時間以内に出現する前駆症状(後述)の有無に留意する。原因不明の急激な血球減少(特にリンパ球),原因不明のMOFでは,ARSを鑑別に入れ,高線量被ばく事象の有無を検索する。また,原因不明の高度疼痛を伴う難治性の局所皮膚発赤・浮腫・びらんではLRIを鑑別に入れ,放射線照射・検査の病歴を聴取する。

    ▶バイタルサイン・身体診察のポイント

    【バイタル】

    放射線被ばくのみでは,急性期にバイタルサインの異常を呈さないことが多い(ただし,被ばく線量>10~30Gyでは初期から意識障害をきたし予後不良である)。

    【身体診察】

    「悪心・嘔吐,下痢,頭痛,発熱,意識障害」が被ばく後6時間以内に一過性に出現することがあり,前駆症状と呼ばれる。前駆症状を認めた場合は,1Gy以上の全身急性被ばくが疑われるため入院観察とする。中でも「嘔吐」は感度が高く,被ばくから嘔吐出現までの時間が短いほど被ばく線量が高い(被ばく後1時間以内の嘔吐は6Gy以上の被ばく,4時間以内は2~4Gy,6時間以内に悪心・嘔吐がなければ1Gy以下)。前駆症状は一過性で,被ばく後48時間以内に消退する。その後,細胞が欠落し臓器不全症状が発症するまで2週間程度の無症候期間(潜伏期)が存在する。そして被ばく後2週以降(発症期),被ばく線量に応じて造血器,消化器,皮膚,神経・血管系等の障害によるMOF症状が出現する,という特徴的な経過をたどる。

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