尿道腫瘍は,男女間で尿道の解剖学的構造が違うこと,また,良性・悪性ともに存在することから,まずは特徴的症状や病因を理解した上で,鑑別を進めていくことが望ましい。
女性の場合は,圧倒的に多い「尿道カルンクル」を第一の鑑別疾患に挙げつつ,全体としては,「尿道癌」を念頭に置いて精査を進めていくことが一般的である。
女性の場合,排尿後に「尿道にしみるような感じがある」「ティッシュに血液が付着する」などの症状が多い。ただし,これらの症状は膀胱炎でも共通するため,実際の診療の現場では,これらの症状をもとに,膀胱炎を第一の鑑別疾患と挙げる泌尿器科医も少なくない。
膀胱炎との鑑別として,症状においては,上述の症状を認めるものの膀胱炎の典型症状(頻尿,残尿感,排尿痛)は比較的少ないこと,尿所見においては,膿尿や細菌尿は認められないか,あっても軽微である一方,潜血尿や血尿が表立っている,などが挙げられる。
なお,尿道腫瘍の発症機序は,排尿や下着による物理的刺激によってもたらされていることが多い。このため,上述の症状や尿所見を認めた場合,尿道腫瘍も念頭に置き,外尿道口周囲の観察も考慮しなければならない。
最も多い疾患は尿道カルンクルで,閉経後の女性の外尿道口6時付近に,赤みを帯びた結節としてみられることが多い1)。病因として,慢性炎症に伴う炎症性増殖やエストロゲンの欠乏が挙げられているが,明確には論じられていない。よって,治療としては,抗炎症薬の塗布1)や内服を先行し,治療の反応性をみることが一般的である。反応が乏しい場合は手術療法,すなわち,カルンクル基部の尿道粘膜を含めたカルンクルの切除,その後,欠損部辺縁の尿道粘膜同士の縫合を行う1)。なお,認めた病変が尿道カルンクルの所見に合致しない場合は,尿道癌を考える必要がある。
男性の場合,無症状のうちに病変が進行し,やがては血尿または尿道出血が生じ,来院するケースが多い。その他の症状がなければ,原因疾患として尿路感染症より腫瘍性疾患を考えることが自然であり,この時点で泌尿器科専門医に紹介することが望ましい。その後,泌尿器科医のもとで,尿道・膀胱を内視鏡下に観察することになるが,尿道腫瘍であれば,尿道に責任病変を確認することになる。
尿道カルンクルを除き,尿道に占拠病変を認めた場合の対応は,男女ともに尿道癌を念頭に置き,病期精査として画像検査(CT,MRI)を行う必要がある。限局がんであれば手術療法を考慮するが,多くは進行がんで発見され,化学療法を行うことが一般的である。なお,尿道癌の組織型の多くは尿路上皮癌や扁平上皮癌になる。
悪性腫瘍の治療歴がある症例,特に消化器系腫瘍や膀胱癌の手術歴がある症例では,再発や転移病変が生じることがあるので,尿道に病変を認めた場合,既往歴の確認は欠かせない2)。
尿道腫瘍は,おおよその外観が確認できるからといって,生検を外来やベッドサイドで行うことは好ましくない。理由は,血流に富む病変であるため,生検後に出血や疼痛が持続することが想定されるためである。よって,組織の一部生検が目的であっても,専門医に紹介することが望ましい。
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