非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)例では心血管系(CV)リスクの上昇が報告されている。では、CV高リスク2型糖尿病(DM)例のCVイベントを抑制するSGLT2阻害薬は、2型DM例の肝臓/NAFLDにどのような影響を及ぼしているのか。そしてNAFLDはSGLT2阻害薬のCVイベント抑制作用に影響を与えるのか―。
このような観点からRCT“EMPA-REG OUTCOME”を後付け解析した結果が、6月28日、米国糖尿病学会(ADA)バーチャル学術集会にて、Sabine Kahl氏(デュッセルドルフ大学、ドイツ)によって報告された。CV高リスク2型DM例の多くは肝変性を伴っており、SGLT2阻害薬には脂肪肝抑制作用はあるものの線維化は抑制せず、またNAFLDが進展するとSGLT2阻害薬のCV保護作用が減弱する可能性が示唆された。
EMPA-REG OUTCOME試験の対象は、CV疾患を合併する2型DM 7020例である。高低用量別2群のSGLT2阻害薬群とプラセボ群の3群にランダム化され、二重盲検法で3.1年間(中央値)追跡された。その結果、高低用量2群を併合したSGLT2阻害薬群において、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」のハザード比は0.86(95%信頼区間:0.74-0.99)と、有意な低値となっていた(既報)。
今回Kahl氏らは、試験開始時の「Dallas脂肪肝指数」(DSI)と「NAFLD線維化スコア」(NFS)を算出し、NAFLDと肝線維化が転帰に与える影響を検討した。
そのため試験開始時データを解析すると、DSIから「NAFLD陽性的中率7割」に相当すると考えられた例が72.1%、NFS上「高度肝線維化」・「肝硬変」に相当すると考えられた例が22.8%存在した。
まず、SGLT2阻害薬によるHbA1c低下作用だが、観察期間を通して、DSIとNFS、いずれの高低も問わず一貫していた(減弱は見られず)。
NAFLD指標への影響は、DSIが試験開始28週間後に、SGLT2阻害薬群でプラセボ群に比べ、約0.20の有意低値を示し、その差は試験終了時までほぼ維持された(期間中を通して有意差)。一方、肝線維化の指標であるNFSの推移は、SGLT2阻害薬群とプラセボ群の間にまったく差を認めなかった。
次に試験開始時のDSIと臨床転帰の関係を調べた。すると、「CV死亡」、「心不全(HF)入院」とも、DSIが高値になる(NAFLDの可能性が高い)ほど、SGLT2阻害薬群におけるリスク減少幅が小さくなる傾向を認めた(NS)。そして「CV死亡・HF入院」を併合解析すると、試験開始時DSI高値ほどSGLT2阻害薬による抑制作用が減弱していた(交互作用P=0.029)。他方、SGLT2阻害薬による「総死亡」と「腎症発症・増悪」抑制作用は、DSIとの交互作用を認めなかった。
対照的にNFSの高低(肝線維化重篤度)は、上記いずれのイベントとも交互作用は認められなかった(SGLT2阻害薬による抑制作用は一貫)。なおKahl氏は、SGLT2阻害薬によるNAFLD抑制が長期的には線維化を抑制する可能性もあるとの見通しを示した。
EMPA-REG OUTCOME試験本体は、Boehringer IngelheimとEli Lillyの資金提供を受けて行われた。今回の報告者であるKahl氏には申告すべき利益相反はないという。