臍ヘルニアは,新生児の4~10%に認められ,男女差はない。極低出生体重児では,さらに頻度が高いとされる。生後数週間で顕在化し,生後2~3カ月頃に最大となり,その後,1歳までに80%が,2歳までに90%が自然治癒する。
臍部に1~3cm程度の膨隆があり,啼泣など腹圧の上昇で増大し,手指で圧迫するとヘルニア内に脱出した腸管がグジュグジュという感覚で容易に還納できる。還納後には,臍輪部の筋膜閉鎖不全によるヘルニア門を触知する。
臍ヘルニアは他部位のヘルニアと比較して,自然経過観察による嵌頓などの合併症はきわめて低いとされる。自然治癒率の高さと合併症率の低さから,経過観察を原則とし,2歳までに治癒しなければ手術治療を考慮することが従来の治療方針であった。
しかし,大きな臍ヘルニアの中には,自然治癒したあとの余剰皮膚が皺状に残り,治癒後も整容面で不満足に感じる場合がある。また,わが子の臍の外観に将来の不安を持つ保護者は多く存在する。そのような中,わが国では近年,臍圧迫療法による臍ヘルニアの早期治癒と臍突出症の予防についての報告が増加した。そして,2014年の診療報酬改定では,臍ヘルニア管理指導料の算定が認められた。現状では,臍圧迫療法を行った場合と自然経過を観察した場合の無作為化比較試験などエビデンスレベルの高い知見は確立されておらず,自然治癒後の青年期以降の臍外観を追跡した知見もほとんどない。しかし,圧迫療法を施行した医師の満足度は8割以上との報告がある1)。また,臍圧迫療法は,生後3カ月までに開始したほうが早期のヘルニア門閉鎖が得られ,治癒率が高く,その場合は正期産児よりも早産児・低出生体重児のほうがより有効であるという報告がある2)。
臍圧迫療法の有害事象には,接触性皮膚炎と,頻度は低いが医原性ヘルニア嵌頓がある。接触性皮膚炎の発症率は,被覆材の工夫や固定前の皮膚清拭で軽減されるが,皮膚炎を発症した場合は圧迫療法の一時中断が必要になる。医原性ヘルニア嵌頓の原因は,留置した固定材の「ずれ」が臍ヘルニア基部に脱出した腸管を圧迫する場合や,圧迫療法の効果によるヘルニア門である臍輪の急激な狭小化などが考えられている3)。もともと本症における嵌頓の自然発生率はきわめて低いため,医師にもその認識が低い場合がある。保護者への注意喚起がなされず,その結果,緊急時の受診が遅れれば,圧迫療法を指導した医師の責任が問われる可能性がある。そのため,圧迫療法開始時には,過度に心配させる必要はないが,保護者に嵌頓の可能性を説明しておくことが重要である。
なお,臍ヘルニア圧迫指導管理料の算定要件として,①臍ヘルニアの病態,②臍ヘルニア圧迫療法の概要及び具体的実施方法,③臍ヘルニア圧迫療法の治癒率と治癒しなかった場合の治療法,④想定される合併症及び緊急時の対処方法,以上の項目を保護者に説明し,診療録への記載を行うことが求められている。
そのほか,臍ヘルニアを合併しやすい疾患としては,ダウン症候群や18トリソミー症候群などの染色体異常症,Beckwith-Wiedemann症候群,Ehlers-Danlos症候群,ムコ多糖症,甲状腺機能低下症などが挙げられる。ほとんどの臍ヘルニアは健康な児にみられる症状であるが,巨舌や低緊張などの臍ヘルニア以外の徴候がみられる場合は,基礎疾患の存在を念頭に置いて鑑別する。
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