【抗菌薬選択は,多剤耐性グラム陰性菌による感染のリスクに依存する】
尿路感染症には,膀胱炎(膀胱/下部尿路の感染)および腎盂腎炎(腎臓/上部尿路の感染)が含まれます。女性では,尿路感染症の病因は,糞便フローラからの尿路病原体による腟口のコロニー形成から始まり,続いて尿道を経由して膀胱に上昇し,腎盂腎炎の場合は,尿管を経由して腎臓に到達します。急性単純性膀胱炎は,膀胱に限局していると推定される急性尿路感染症を指します。このような感染症には,膀胱を越えて広がる感染症を示唆する兆候や症状がありません。すなわち,発熱,全身性疾患の他の徴候または症状(悪寒や倦怠感),側腹部痛や腰背部痛を認めません。急性単純性膀胱炎に罹患する患者の多くは性的活動期の女性です。そのため,「JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015」1)では閉経前女性における急性単純性膀胱炎と,閉経後女性における同膀胱炎とは区別されています。
治療において,empiricな抗菌薬選択は,多剤耐性(multidrug-resistant:MDR)グラム陰性菌による感染のリスクに依存します。たとえば,近年話題の基質拡張型β-ラクタマーゼ(extended spectrum β-lactamase:ESBL)産生菌の約70%はキノロン系薬耐性であるため,抗菌薬の選択に慎重になる必要があります。
閉経前の女性における急性膀胱炎の分離菌としては,グラム陽性球菌(Staphylococcus saprophyticusなど)の分離頻度が比較的高く,大腸菌はβ-ラクタマーゼ阻害薬(β-lactamase inhibitor:BLI)配合ペニシリン系薬,セフェム系薬,キノロン系薬いずれも90%以上の感受性が認められます。そのため,原因菌が不明の場合,またはグラム陽性球菌が確認されている場合には,キノロン系薬を第一選択としても大丈夫ですが,尿検査でグラム陰性桿菌が確認されている場合には,セフェム系薬またはBLI配合ペニシリン系薬が推奨されています。
閉経後の女性における急性膀胱炎の分離菌としては,グラム陽性球菌の分離頻度が低く,大腸菌はキノロン耐性化率が高いため,第一選択としてはセフェム系薬またはBLI配合ペニシリン系薬が推奨されています。また,ESBL産生菌に対して,経口抗菌薬としてはファロペネム(FRPM),ホスホマイシン(FOM)などが有効です。
【文献】
1) JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会:日化療会誌. 2016;64(1):1-30.
【回答者】
宮﨑 淳 国際医療福祉大学医学部腎泌尿器外科主任教授