1 難治性過活動膀胱とは何か?
・過活動膀胱の一次治療としては,生活指導,膀胱訓練,骨盤底筋訓練などの行動療法と,抗コリン薬やβ3作動薬を含む薬物療法が行われる。
・これら一次治療を単独ないし併用療法として,少なくとも12週間継続しても抵抗性である場合が,「難治性過活動膀胱」と定義されている。
2 薬物療法
・女性過活動膀胱では,抗コリン薬やβ3作動薬の単独投与で効果が不十分な場合は,併用療法が推奨される。
・男性過活動膀胱においては,初期治療であるα1遮断薬,PDE5阻害薬,5α還元酵素阻害薬の効果が不十分なときは,抗コリン薬やβ3作動薬の上乗せが有効な場合がある。
・排尿障害が強い/前立腺体積が大きい/高齢者,に投与する場合は,排尿困難や尿閉などの有害事象に注意する。
・薬剤併用開始前に残尿がないことをエコーで確認する。
・薬剤は低用量から開始する。
・投与開始後もエコーによる残尿確認を怠らないようにする。
3 神経変調療法
・神経変調療法とは,膀胱・尿道機能を支配する末梢神経を種々の方法で刺激し,神経機能の変調により膀胱・尿道機能の調整を図る治療法と定義されている。
・電気刺激療法として,わが国では干渉低周波療法と仙骨神経刺激療法(SNM)が保険適用となっている。
・磁気刺激療法は,椅子式の連続磁気刺激装置が保険適用となっている。
4 ボツリヌス毒素注入療法(BTX)
・ボツリヌス毒素はコリン作動性神経からのアセチルコリン放出を抑制することで,平滑筋と横紋筋の弛緩作用を示す。
・膀胱壁内に注入することで排尿筋過活動が抑制される。
・わが国では2020年にA型ボツリヌス毒素製剤(商品名:ボトックスⓇ)が保険収載された。
・A型ボツリヌス毒素製剤は,100単位を10ccの溶解液に溶き,膀胱鏡を用いて20箇所に分割して注入する。
5 SNMとBTXの比較
・SNM
[長所]
◇テスト刺激で有効症例の選別が可能である
◇治療効果が長時間持続する
[短所]
◇デバイスを埋め込むための手術が必要になる
◇MRIが施行困難になる,など
・BTX
[長所]
◇外来治療が可能な低侵襲治療である
[短所]
◇反復して治療を行う必要がある
◇術後に尿閉などの排尿障害や尿路感染をきたす可能性がある
・SNMとBTXの費用対効果分析を比較した報告では,SNMが優れているという研究結果と,BTXが優れているという研究結果が混在している。
一般的に難治性過活動膀胱とは,「一次治療に抵抗性である過活動膀胱」と解釈される。「過活動膀胱診療ガイドライン」1)では「一次治療である行動療法および各種抗コリン薬(経口剤,貼付剤)やβ3作動薬を含む薬物療法を単独ないし併用療法として,少なくとも12週間の継続治療を行っても抵抗性である場合」と定義されている。2019年に刊行された「女性下部尿路症状診療ガイドライン」2)でも同様に「初期治療における行動療法,薬物療法を少なくとも12週間継続しても抵抗性である場合」と記載されている。いずれの診療アルゴリズム(図1)においても,難治性過活動膀胱に対しては行動療法,薬物療法,神経変調療法などを専門的に行うことが推奨され,「女性下部尿路症状診療ガイドライン」では,不変症例に対して膀胱鏡下ボツリヌス毒素注入療法(botulinum toxin:BTX)や仙骨神経刺激療法(sacral neuromodulation:SNM)が推奨されている。