陰囊水瘤とは,腹膜鞘状突起内や精巣固有鞘膜腔内に過剰に漿液が貯留し,陰囊が腫大した状態である。精索周囲の腹膜鞘状突起内に漿液貯留を認めれば精索水瘤,精巣周囲の鞘膜腔内に漿液貯留を認めれば精巣水瘤である。胎生期の精巣降下の際に,腹膜鞘状突起は精巣,精索を包み込んで陰囊内に下降し,やがて鼠径部付近から精巣の直上までの精索周囲部分が閉鎖して腹腔との交通性は消失する。本症はその交通性が残っているために漿液が貯留している交通性水瘤と,交通性は消失しているが漿液は残存している非交通性水瘤に分類される。もう1つ加えると,交通性が大きく腹腔内容物が腹膜鞘状突起内や精巣固有鞘膜腔内に出てくるものを鼠径ヘルニアという。一般に小児では交通性の水瘤が多く,成人は非交通性の水瘤が多い。
問診,触診,超音波検査にて比較的容易に診断は可能である。陰囊の腫大と無痛性の軟らかな腫瘤を蝕知する。交通性の場合には圧迫にて腫瘤に縮小を認めることがある。透光性試験では,光が水瘤部を通して透見される場合もあり,診断には有用である。鼠径ヘルニアの合併には留意する必要があるため,超音波検査にて腹腔内容物の有無は確認すべきであるし,同時に精巣や精巣上体に腫瘍性変化や炎症などの異常がないかも併せて確認は必要である。
乳幼児か成人かによって治療方針は異なる。乳幼児の場合は自然治癒率も高く,鼠径ヘルニアや停留精巣等の他の局所の合併症がなければ,3~4歳頃までは基本的に経過観察とする。その後も残存している場合には,外科的処置を考慮する。成人で施行される穿刺吸引は,患児に苦痛を強いるだけではなく,感染の危険を伴い再発もまず必然のため禁忌である。
成人の場合は違和感や歩行障害など有症状であれば,外科的処置を考慮する。
陰囊水瘤は自然治癒の頻度も決して低くはないが,腹部にまで及んできている症例には,注意が必要である。
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