胎児期に腹腔内で発生した精巣は,成長とともに鼠径部から腹腔外に出て,出生時には陰囊内に降下して認められるが,その降下経路の途中で停留して,精巣が陰囊内に認められない状態を言う。発生頻度は新生児期で4.1~6.9%,3カ月で1.0~1.6%,1歳時で1.0~1.7%とされる1)。低出生体重児や早期産児には高頻度である。生後6カ月までは自然降下も期待されるが,以後は精巣の下降は完了したものと考えられている。放置すると妊孕性や精巣の悪性化に影響する。停留精巣が悪性化をきたす割合は一般の約2~5倍で,しかも腹腔内停留精巣は鼠径部停留精巣より悪性化しやすいと言われる。
触診での診察が基本である。患児は緊張のない状態で診察するのがよいが,なかなか難しい。暖かい診察室で検者の手も温めての施行が基本である。右手中指・薬指・小指の指先は陰囊部に添えておき,左手の中指・薬指・小指の指先を患児の下腹部から鼠径部,陰囊部へと軽く圧迫しながら滑らせ,両手10本の指で包み込むようにして精巣を検索する。触診で触知可能な触知停留精巣と,触知できない非触知停留精巣に分類される。さらに非触知停留精巣は,腹腔内に精巣を認める腹腔内停留精巣と,胎生期に著明な萎縮をきたし明らかな精巣組織を認めない消失精巣に分類される。触知精巣の場合は超音波が有用で,非触知精巣の場合はMRI検査が有用であるとされる。しかし非触知精巣のMRI診断は,腹腔内停留精巣の診断は確定できるが,消失精巣の確定は困難なことが多い。そのため消失精巣が疑われる場合には,腹腔鏡検査が先行されることも多い。
触知精巣の場合は生後1年頃に停留精巣固定術を予定する。
非触知精巣の場合は,生後半年以後にまずその局在を精査し,非触知精巣が腹腔内停留精巣か消失精巣かを鑑別する。我々は,前述の腹腔鏡を診断目的に施行している。腹腔鏡的に腹腔内を確認し,腹腔内の精巣降下経路に精巣が認められれば,腹腔内停留精巣の診断にて腹腔鏡的な精巣固定術を施行する。腹腔内に認められない場合は,病側の内鼠径輪を観察し血管と精管がそこを通過していれば精巣は腹腔内にはなく,腹腔外へ降下した消失精巣と診断し,病側の鼠径部切開にて精索に続く遠位組織(nubbin)を摘出する。一方,腹腔鏡検査にて内鼠径輪は閉鎖し,精巣血管と精管が内鼠径輪近傍で途絶消失している場合には,腹腔内の消失精巣と診断する。近年このような症例でも鼠径部にnubbinを認める場合があるとの報告があるが,頻度は低く我々はそれ以上の処置は施行していない。
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