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COVID-19後遺症の診療体制の構築を急げ─ME/CFSの診療経験から学ぶ

No.5094 (2021年12月11日発行) P.52

伴 信太郎 (日本疲労学会理事/愛知医科大学医学教育センター特命教育教授)

倉恒弘彦 (日本疲労学会理事/大阪大学大学院医学系研究科招へい教授)

大塚文男 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・総合内科学教授)

片岡仁美 (岡山大学病院ダイバーシティ推進センター教授)

石川真紀 (CFS(慢性疲労症候群)支援ネットワーク会長)

登録日: 2021-11-08

最終更新日: 2021-11-08

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1    はじめに

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome:ME/CFS,以下ME/CFS)は,疫学研究で日本に約12万~36万人の患者の存在が推定されている。それにもかかわらず,今日の日常診療で使用される血液・尿検査や画像検査では明確な異常所見が認められないため,臨床症候で診断せざるをえない。さらには「疲労」という誰もが経験する症状が付された病名であることも相俟って,「特に異常がみられないのに疲労を口実に怠けている」などの過小評価や無理解の原因となっている。医療関係者の間でも認知度が低く,診療を担当できる施設がきわめて限られていて,患者は十分な診断・治療が受けられず,福祉的なサポートも不十分な状況にある。患者には「ME/CFS患者は,捨て置かれてきた」という思いが強い。

一方,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の10~60%が,急性期を過ぎても様々な症候が改善しない,“Long COVID”等と呼ばれる後遺症(以下,COVID-19後遺症)が問題になりつつある。

COVID-19後遺症の患者にME/CFS患者と同じ道をたどらせないためにも,日本全国に「ME/CFSおよびCOVID-19後遺症の診療ネットワークの構築」が急がれる。本稿では,これらの2つの病態の概略を述べ,早急に取り組むべき喫緊の課題について提言する。

2    ME/CFS1)

(1)CFSとは

1984年,米国ネバダ州の人口約2万人の町で,激しい疲労感とともに,脱力,全身の痛み,思考力・集中力の低下などの症状が長期に続くため,日常生活や社会生活に支障をきたすような患者の集団発生(約200名)が報告された。当時,米国ではEB(Epstein-Barr)ウイルスによる慢性的な感染症が同様の病態を引き起こすことが知られていたため,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)が組織した研究者グループにより病因ウイルスの調査が実施された。しかし,いくつかのウイルスの活性化は確認されたものの,多くの症例の発病を説明できるような病因ウイルスを同定することはできなかった。そこでCDCは病因解明に向けての調査対象を明確にするための1つの基準を1988年に発表した2)。これが世界中で広く使用されるようになったCDCのCFS診断基準である。当時は,この病気の原因がウイルスによるものか否かも明らかでなかったため,多くの症例に共通していた‘慢性的な疲労’を中心的な病態として取り上げ,CFSと名づけた。

多くのCFS患者は,感染症や生活環境ストレスをきっかけに発病しており,慢性的な疲労・倦怠感とともに,微熱,頭痛,筋肉痛,関節痛,咽頭痛,脱力,思考力低下,物忘れ,睡眠障害,立ちくらみなどの多彩な症状が長期にわたって続く。そのため,日常生活や社会生活に重篤な障害を抱えており,生活介助が不可欠な患者も少なくない。

(2)MEとは

英国では,CFSという概念が発表される以前より,ウイルス感染症などがきっかけとなった全身倦怠感を主な症状とする病態を,ウイルス感染後疲労症候群(post-viral fatigue syndrome:PVFS)やMEと診断してきた。MEという診断は,1955年Royal Free Hospitalにおいて医療従事者を中心に頭痛,全身倦怠感,咽頭痛,消化器症状,発熱,リンパ節腫大,脱力,筋肉痛,中枢神経症状を伴う集団発生(300名)がみられたことがきっかけとなっている。典型的なポリオとは臨床病態が異なっており,また,いくつかの集団発生が確認されたことより,ウイルス感染に基づく脳神経系の炎症を想定してMEと名づけられた3)

(3)エビデンスに基づきME/CFSの概念を整理

このようにMEとCFSはそれぞれ欧州と米国で疾患概念が形成されていたが,2015年に米国医学研究所(Institute of Medicine:IOM)は,過去30数年間に世界中で報告されてきたMEやCFSに関する9000を超える論文をレビューし,同年2月に全身性労作不耐症(systemic exertion intolerance disease:SEID)という病名とその臨床診断基準を提唱した4)。新しい病名を提唱した理由は,CFSのように「疲労」という誰もが経験する症状が付された病名では,「疲労は誰でも経験する」「疲労を口実に怠けている」などの過小評価や無理解の原因となってしまい,さりとて,MEという病名は脳脊髄液や脳波などの検査に異常がみられないため病態を正確に反映していないと強い反対が続いていたためである。またIOMの報告では,病態の中核は神経免疫異常であり,それが中枢神経に炎症を起こし,そのことによって様々な自律神経症状,中枢神経症状,内分泌異常などをきたしていると推定されている。そして,これは「心因性」でも「怠け」でもない“realな病気”であることを強調するとともに,除外診断の末に診断名をつけるのではなく,積極的に診断名をつけるべきことを勧めている。

IOMが発表したSEID診断基準については,プライマリ・ケアを担っている医師が医療現場で用いる診断基準としての簡便性,利便性を備えていると評価された。一方で,診断基準としての特異度が低く,また除外基準も示されていないために,多くの精神疾患(特にうつ病)が含まれてしまい,頻用されてきたCDCのCFS診断基準(1994)5)に比して有病率は2.8倍になるという問題点も指摘されていた。

(4)日本におけるCFS研究

A. 実態調査

ア)一般地域住民を対象とした疫学調査

日本においては,CFSの実態調査は,1999年(班長:木谷照夫)と2012年(代表研究者:倉恒弘彦)に厚生(労働)省の研究班で行われている。これらの調査研究をまとめると,日本では約12万~36万人のME/CFS患者がいると考えられている。

イ)CFS診療を行っている医療機関の実態調査

CFS診療を行っている医療機関の実態調査は,2012年(代表研究者:倉恒弘彦)と2014年(代表研究者:遊道和雄)の2回行われている。これらの研究をまとめると,男女比1:2~3,平均年齢約40歳,約1/4の患者は「身の回りのことができず,常に介助が必要で終日寝たきり」「身の回りのある程度のことはできるが,しばしば介助が必要で日中の半分以上が寝たきり」で,約7割の患者は仕事をしていなかった。発症に関与したと考えられる要因は,「感染症」「発熱」「過労・ストレス」が挙げられた。

B. 病因・病態の解明研究

これまでMEという病名が用いられてきたが,脳神経系に炎症が存在することを客観的に示す検査異常はみつかっていなかった。この点でのブレイクスルー研究は日本から発表された。神経炎症の有無を調べることのできる[11C]PK-11195を用いたPET(positron emission tomography)検査により,CFS患者は健常者と比べて,視床,中脳,橋,海馬,扁桃体や帯状回で神経炎症がみられることが判明した。さらに,視床,中脳,扁桃体での炎症が強い場合は認知機能の障害が強く,帯状回や視床の炎症の強さと頭痛や筋肉痛などの痛みの程度が相関し,また海馬での炎症が強いほど抑うつの症状が強いこと等から,脳の神経炎症の局在と臨床病態が深く関わっていることも明らかになった6)

C. 簡便で利便性の高いME/CFS臨床診断基準の発表

2017年には筆者らが,プライマリ・ケアを担っている医師が医療現場で用いる診断基準には,簡便性,利便性が求められることに鑑み,SEID診断基準を踏襲した上で,以下の4点を付け加えてわが国におけるME/CFSの臨床診断基準とすることを提案した7)

(ア)ME/CFS診断に必要な最低限の検査を記載
(イ)鑑別すべき主な疾患・病態を記載
(ウ)共存を認める疾患・病態を記載
(エ)PSによるQOL評価を採用(医師が判断,判断の具体例を記載)
※PS:performance status,患者の活動可能レベル

(5)日本におけるME/CFS診療の現状と課題

日本の現状は,①ME/CFSの病因・病態が解明されていないこと,②現在,世界中で用いられている診断基準が,病因・病態を解明することを目的に作成された研究用診断基準であるため診断に長時間を要することにより,ME/CFSを診療してもらえる医療機関がほとんどない。そのため,大半のME/CFS患者は診療を受けることもできずに困窮している。ME/CFSに対しては病因・病態の解明研究とともに,患者の診断・治療を担う診療体制の確立が喫緊の課題となっている。

3    COVID-19後遺症

COVID-19は,急性期の症状を脱しても様々な症候が残存していることがしだいに明らかとなってきている。日本でCOVID-19感染が明らかとなってからまだ2年を経過していないため,後遺症の実態が明らかにされてくるのはこれからであるが,筆者らの経験8)を含め,現時点で文献から判断できるCOVID-19後遺症の概略は下記の通りである。

(1)定義

コンセンサスを得た定義はまだないが,おおむね罹患後4~12週間を過ぎても症状が遷延している例が報告されている9)

(2)疫学

入院を要さない軽症のCOVID-19の場合でも何らかの症状が遷延することは多く10)11),また遷延する症状(4〜6カ月以上)は急性期症状の重症度と必ずしも相関しない。また,半数以上(50〜76%)の患者で急性期にはなかった症状が出現したり,いったん改善した症状が再燃したりしている11)。パンデミックが始まってまだ2年を経過していないので,ME/CFSの診断基準の「6カ月以上の病悩期間」を満たす患者はまだ多くはないが,米国からの報告では,COVID-19後遺症患者の約10%がME/CFSの診断基準を満たすと推定されており12),現在の患者数(約170万人:2021年10月8日現在)に基づいて最も低い頻度で単純計算しても,今後約1万7000人のME/CFS患者の発生が予測される。

(3)病態

COVID-19後遺症においては,入院患者の場合は,各種の障害臓器の慢性化,集中治療後症候群,廃用症候群,ウイルス感染後慢性疲労などが混在していると思われる。しかし,筆者らが現在外来で診療している,入院を要さず自宅待機で急性期を経過した患者の場合は,そのほとんどがウイルス感染後慢性疲労に分類される全身倦怠感,自律神経障害症状,種々の疼痛を主訴とし,それに加えて患者によってそのほかの様々な症候を呈している。

(4)具体的な臨床症候および経過

COVID-19後遺症患者で最も多い症状は倦怠感,呼吸困難感,味覚・嗅覚障害である11)13)14)が,そのほかとしては,精神的症候(睡眠障害,抑うつ症状,不安感など),神経学的症候〔認知機能(注意,集中力,記憶)障害,平衡障害,感覚障害(味覚障害,嗅覚障害など),構語障害,嚥下障害〕などの多彩な症候がみられる9)。多くの場合は,12週以内に症候は改善する11)が,12週以上遷延する頻度は10~65%と報告によってかなり幅がある9)

(5)日本におけるCOVID-19後遺症診療の現状と課題

COVID-19後遺症は,身体的問題のみならず,社会的問題(孤立など),経済的問題(離職など),生活習慣(食事や運動など)等も病像の形成に影響していると考えられる。これらに対処するには全人的かつ多臓器にわたる配慮をした診療が必要である9)10)。このような患者の対応には,その診療に責任を持つ医師(主治医)が必要であり,主治医が必要に応じてそれぞれの症候に対処するのに適した専門家にコンサルテーションをしながら診療するような体制が望ましい(総合診療医を中心とした集学的診療体制)8)。決して患者や家族がそれぞれの症候の診療にふさわしい医師を求めて彷徨うような状態にしてはならない。

また現在,日本でもCOVID-19後遺症の研究は始まっているが,筆者らの知る限りはそのほとんどが入院患者のフォローをしたものである。現在筆者らの「COVID-19後遺症外来」(岡山大学病院ではコロナ・アフターケア外来と呼称)を訪れる患者の大多数(岡山大学病院では約7割)は,外来で診断を受けて自宅あるいはホテルで療養した患者である。入院治療を受けた患者は入院した病院でフォローしてもらえるが,入院をしていない人は近医を受診しても,多彩な後遺症の症候に対応することは困難な場合が多い8)

COVID-19後遺症患者のような多彩な症候を呈する患者には,様々な専門外来を有する総合病院で,総合診療専門医が症候の交通整理を行うような体制が必要である8)

4    おわりに─いま喫緊の課題として求められていること

筆者らは,何箇所もの医療機関を巡り巡った挙句にようやく我々の外来にたどり着いたME/CFS患者の診療に従事する中で,多くの患者の苦悩を目の当たりにしてきた。昨年(2020年12月)に参議院で出された「COVID-19とME/CFSの研究に関する質問主意書」15)に対して,政府からの公式の答弁書16)の概要は,以下のような患者の苦悩に寄り添ったとは思えないものであった。

①ウイルスに感染等した後にME/CFSを発症したとする事例の報告があることは承知している。

②ME/CFSに関する知見を有する研究者と情報交換を行っており,その研究者を通じて感染症とME/CFSの関連性に関する文献等の資料の収集を行っている。

③新型コロナウイルス感染症から回復した者の症状については,令和2年度厚生労働行政推進調査事業費補助金による「COVID-19感染回復後の後遺障害の実態調査」,「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の長期合併症の実態把握と病態生理解明に向けた基盤研究」および「新型コロナウイルス感染症による嗅覚,味覚障害の機序と疫学,予後の解明に資する研究」を実施しており,その結果をふまえて対策を講じる。

④「ME/CFS発症の可能性を調べる実態調査」の実施および「COVID-19とME/CFSに焦点を当てた研究を行う体制」の構築については国内外の研究の結果等をふまえて検討する。

⑤ME/CFSは発病機構が不明であり,客観的な指標を用いた診断基準や治療法が確立されていないため,様々な診療科の医師が連携して診療を行うことが適切であると考えている。現状は日本医療研究開発機構の研究開発事業によるME/CFSの診療の手引の訳出等の支援をしていく。

今年(2021年)8月19日に患者支援団体の代表者を交えて厚生労働省のコロナ担当官,難病担当官と懇談したとき(Webにて)も,この問題に関心を持って頂いた参議院議員を通して厚生労働省に提言書を提出したときの返答(10月1日)も,ほぼ前述の①~⑤の回答であった。

筆者らが本稿で提言しているのは,ME/CFSおよびCOVID-19後遺症患者の診療窓口になり,かつ罹患後時間が経過した外来でのCOVID-19後遺症患者の病態についての臨床研究も可能とするような「総合診療医を中心とした集学的診療体制」の全国的なネットワークの構築である。現在,COVID-19後遺症とME/CFSを直結したり,混同したりする情報も少なくないが,このような全国的なネットワークの構築は,それぞれの疾患の病態と相互関係について国民の正しい理解を深めることにも寄与することができるであろう。

筆者らが担当している外来を含め,COVID-19後遺症の患者を診療する外来は,多くの患者が受診を希望して数カ月待ちの状態である17)。COVID-19に対する緊急対策の1つとして,政府には早急にこのような診療体制構築に支援の手を差し伸べてもらいたい。

【文献】

1)    倉恒弘彦, 他, 編:専門医が教える 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)診療の手引き. 日本医事新報社, 2019.

2)    Holmes GP, et al:Ann Intern Med. 1988;108(3), 387–9.

3)    Behan PO, et al:Br Med Bull. 1991;47(4), 793-808.

4)    Institute of Medicine:Beyond Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome:Redefining an Illness. National Academies Press, 2015, p1-282.

5)    Fukuda K, et al:Ann Intern Med. 1994;121(12), 953–9.

6)    Nakatomi Y, et al:J Nucl Med. 2014;55(6), 945-50.

7)    伴 信太郎, 他:日疲労会誌. 2017;12(2):1-7.

8)    Otsuka Y, et al:Cureus. 2021;doi:10.7759/cureus.18568

9)    Korompoki E, et al:J Infect. 2021;83(1):1-16.

10)    Al-Aly Z, et al:Nature. 2021;594(7862):259-64.

11)    Shah W, et al:BMJ. 2021;doi:10.1136/bmj.n136

12)    Komaroff AL, et al:Front Med. 2021;doi:10.3389/fmed.2020.606824

13)    Carfi A, et al:JAMA. 2020;324(6), 603-5.

14)    Logue JK, et al:JAMA Netw Open. 2021;doi:10.1001/jamanetworkopen.2021.0830.

15)    第203回国会(臨時会)(2020年10月26日~同年12月5日)質問第34号(2020年12月4日).
    [https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/203/syup/s203034.pdf]

16)    同答弁書(2020年12月15日).
[https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/203/toup/t203034.pdf]

17)    読売新聞ヨミドクター:後遺症「ブレーンフォグ」に苦しむ人,感染半年後に脱毛した人…体だるくても「周囲は普通に接してくる」(2021年9月24日).
    [https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20210924-OYT1T50059/]

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