No.4802 (2016年05月07日発行) P.22
二木 立 (日本福祉大学学長)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-01-25
2016年度診療報酬改定は、財務省の強い引き下げ圧力にもかかわらず、診療報酬本体で0.49%のプラス改定になりました。個々の改定項目をみてもきめ細かい精緻な改定が行われ、激変はありませんでした。それの詳細については多数のレポートがあるので、本稿では今回の改定の狙いとその実現可能性・妥当性に焦点を絞り、3点、簡単に検討します。
今回の改定でまず注目すべき事は、診療報酬「全体」の改定率が公表されなかったことです。この点は、2014年度までの改定では診療報酬「本体」の改定率と同時に「全体(ネット・実質)」改定率(診療報酬改定率+薬価等の改定率)が示されていたのと大きく異なります。そのために、新聞報道等では実質改定率として、-0.84%、-1.03%、-1.43%という3つの異なる数値が用いられています。
私は本誌4785号が報じたように、厚生労働省が公表している薬価・材料価格の引き下げに、①これまで改定率に含まれていた薬価の通常の市場拡大再算定による引き下げ分、②薬価の特例拡大再算定導入による引き下げ分、および③「長期収載分の引き下げ」「大型門前薬局に対する評価の見直し」等による引き下げ分を加えて、全体改定率は1.43%のマイナスとするのが妥当と思います。
厚労省が「全体改定率」を公表しなかった理由は2つあると思います。1つはネットの引き下げ幅を小さく見せ医療関係者等の反発を和らげること、もう1つは薬価の引き下げ分を診療報酬本体引き上げの原資として用いないことの恒常化・制度化です。 「全体改定率」の消失により、今後、厚労省の行う国民医療費の増加要因分析や将来予測に恣意性が入る危険が生じたと言えます。
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