急性単純性膀胱炎は,大腸菌をはじめとする直腸常在菌による上行性尿路感染である。急性単純性膀胱炎に罹患する患者の多くは性的活動期女性である。閉経後女性の膀胱炎も広義には急性単純性膀胱炎としてとらえてよいが,閉経前女性に比べると感染防御能の低下状態にあることが多い。
膀胱炎の臨床症状として頻尿,排尿痛,尿混濁,残尿感,膀胱部不快感などを認めるが,通常,発熱は伴わない。尿検査は診断に必須で,膿尿や細菌尿がみられる。
単純性尿路感染症においては,感受性のある有効な抗菌薬を選択できれば,内服抗菌薬投与のみで治癒が期待できる。しかし,近年ペニシリン系薬やセフェム系薬に耐性を示すESBL産生グラム陰性菌が増加の一途をたどっていること,またESBL産生グラム陰性菌の多くが同時にキノロン耐性遺伝子を持ち合わせている場合が多いことから,単純性尿路感染症の治療も一筋縄ではいかない状態になってきている。
閉経前女性と閉経後女性の違いを考慮し,原因菌推定に基づいた抗菌薬を選択すべきである。若年の閉経前女性はグラム陰性菌が約70%,グラム陽性菌が約30%とグラム陽性菌の比率が高いが,閉経後女性はグラム陰性菌が約90%とグラム陰性菌の比率が高い。閉経前女性においては大腸菌におけるESBL産生菌の割合は約7% 、キノロン耐性率も約10%と高率になってきているため、もはやキノロン系抗菌薬は可能な限り使用すべきではない。一方,閉経後女性においては,大腸菌におけるESBL産生菌ESBL産生菌の割合は約15%、キノロン系薬の耐性率が30%近くあるため、やはり従来通り閉経前女性と同様にニューキノロン系薬の使用は極力控えるべきである。
そのため筆者は,閉経前女性と閉経後女性に限らず,グラム陽性菌にもESBL産生グラム陰性菌にもある程度有効なβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンを第一選択とし,有効性がみられない場合には速やかに尿培養による抗菌薬感受性試験を実施して,抗菌薬を選択することにしている。ESBL産生菌であることが判明している場合には,ホスホマイシンまたはファロペネムが有効とされている。
通常の内服抗菌薬にてなかなか軽快しない場合,反復性・難治性の場合,膿尿や細菌尿が消失した後にも強い排尿痛・頻尿または血尿などの症状が残存する場合には,結核性膀胱炎,膀胱上皮内癌,間質性膀胱炎,骨盤内腫瘍などの疾患を除外する必要があるため,泌尿器科専門医にコンサルトすべきである。
男性の尿路感染症は,原則全例複雑性尿路感染症としてとらえるべきであり,同じく速やかに泌尿器科専門医にコンサルトすべきである。
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