血精液症とは,射出された精液に鮮紅色から茶褐色の血液が混入する状態である。これまでは原因が特定できない特発性が多いとされてきたが,内視鏡や画像診断などによる積極的な検査により,出血部位とその原因が明らかとなる症例も増加している。精囊・前立腺・尿道の非特異的・特異的炎症,精囊拡張・正中線囊胞・射精管閉塞,前立腺や尿道の腫瘍,前立腺生検後(医原性)などが原因となる。悪性腫瘍や炎症などを除くと,大部分は数カ月以内に自然消失するため,無治療経過観察が原則である。しかし,長期持続例や再発例も認められる。
血精液症の原因は多岐にわたり,原因によって治療方針が異なるため,診断は非常に重要である。精路(精巣~精巣上体~精管・精囊~射精管~前立腺~尿道)の異常の有無を精査する。問診により性感染症の可能性,前立腺生検の既往,高血圧や肝硬変などの合併症,抗凝固薬服用,発熱,排尿痛,肉眼的血尿の有無などを聴取する。外陰部,精巣,精巣上体,精管の視・触診,直腸診による前立腺の診察を行う。
性的接触がある患者が排尿時痛を訴え,外尿道口からの排膿や尿沈渣で膿尿を認める場合は,性感染症である淋菌性・クラミジア性尿道炎を疑う。肉眼的血尿や尿沈渣で顕微鏡的血尿を合併する場合,射精管近傍に発生した尿路上皮癌や尿道ポリープの可能性があるため,尿道膀胱鏡や尿細胞診を行う。中・高年者に対しては前立腺癌を除外するために,直腸診に加えて血清前立腺特異抗原(prostate specific antigen:PSA)測定を行う。経直腸的前立腺超音波断層法は,前立腺結石,射精管閉塞,正中線囊胞,精囊拡張などの診断に有用であり,原因が明白な若年者の尿道炎などを除いてルーチンに施行すべきである。精囊が出血部位と推測される場合,骨盤MRI検査により,患側,出血の程度,時期および原因(アミロイドーシスなど)の判定が可能である。
尿道炎などの感染症や前立腺癌・尿道癌などの悪性腫瘍が原因であれば,それに対する治療を行う。それ以外の症例では,原則無治療にて経過観察を行う。Furuyaら1)は,189人の日本人血精液症患者を中央値52カ月間無治療経過観察したところ,中央値1.5カ月(1~42カ月)で168人(88.9%)の症例で血精液症が自然消失したと報告している。
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