【70~90%の症例で,メイズ手術後に心房細動は消失する。術後のP波は,時に振幅が小さくなったり幅が広くなったりすることがあり,その結果P波がわかりにくくなることもある】
メイズ手術は1991年にCox教授が発表し,心房細動に対する外科手術のゴールドスタンダードとなっています。現在はメイズⅣという術式(高周波や冷凍凝固を用いて,手術の低侵襲を図った術式)が広く行われており,適切な症例にこの手術を行えば,70~90%の症例で術後心房細動は消失します1)。ただし,心房細動の種類(発作性か永続性か),年齢や原疾患,術後経過年数によって,心房細動の再発や,心房頻拍の出現を認めることがあります。
Cox教授が所属していたワシントン大学(米国セントルイス)の術後成績は最も信頼でき,かつ良好なもののひとつとされています。孤立性心房細動に対して2003~18年に行ったメイズⅣ手術853例のfollow-upにおける術後心房細動消失率は,術後1年92%,5年84%,10年77%となっています2)。
また,術前の心調律が長期永続性心房細動である症例では一般的に術後成績が悪くなると考えられますが,174例(手術時期:2003~20年,心房細動持続歴:平均7.8年)のfollow-upにおいても,術後心房細動消失率は術後1年94%,5年83%,7年88%であり,全心房細動対象の手術と比較しても遜色のない結果となっています3)。
なお(特にわが国では),メイズ手術は他の開心術と同時に行われることも多いのですが,ワシントン大学で2002~12年に行ったメイズⅣ単独手術151例と同時手術184例の比較では,術後2年までのfollow-upにおいて両者間の成績に有意差がなかったとされています4)。
次にメイズ手術後のP波の変化についてですが,術後,洞調律に復帰しても,P波の電位(振幅)が低くなったり,P波の幅が広くなったり,P波がわかりにくくなったりする症例が,時に見受けられます。
P波の形態の研究はあまり多くありませんが,イスラエルからの150例の報告5)ではV1~4誘導のP波振幅が0.05mV以下のものが21%あり,左房収縮のない症例で有意にP波振幅が小さかったとされています。また左房収縮のない症例ではV1誘導で陽性の単相性が多かったのに対して,左房収縮のある症例では(+)→(-)の二相性のものが有意に多かったとされます。さらに,P波の幅は120ms以上のものが67%あり,左房収縮のある症例のほうが有意に広かったとされています(ただし,この論文の対象の150例中121例は左房のみにメイズ手術を行った簡略手術であり,両側心房にブロックラインをつくる通常のメイズ手術では結果が若干変わる可能性もあると考えられます)。
【文献】
1)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:不整脈非薬物治療ガイドライン 2018年改訂版(2019年3月29日発行, 2021年9月6日更新).
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf
2)Khiabani AJ, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2022;163(2):629-41.
3)McGilvray MMO, et al:J Cardiovasc Electrophysiol. 2021;32(10):2884-94.
4)Lawrance CP, et al;Ann Cardiothorac Surg. 2014; 3(1):55-61.
5)Buber J, et al:Europace. 2014;16(4):578-86.
【回答者】
光野正孝 友紘会総合病院心臓血管外科部長