花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎は,我が国では全人口の30%以上の有病率を示し,今や国民病ともいわれる1)。通年性アレルギー性鼻炎の主なアレルゲンはハウスダストマイトである。一方,花粉症のそれはスギ花粉が最も多い。一般的には,これらのアレルギー性鼻炎は即時型アレルギー(Ⅰ型)と理解されているが,通年性のアレルゲンに日常的に曝露されると鼻炎の症状は慢性化して,肥厚性鼻炎へと進行していくことが少なくない。
ガイドラインによれば,軽症の時期から鼻噴霧ステロイド薬の適応となる1)。通常なら鼻噴霧ステロイド薬やロイコトリエン拮抗薬が有用であるが,中にはこれらの薬剤に反応しない症例がある。そのような症例には,漢方薬の出番である。
鼻炎の症例に対する漢方治療では,寒熱の鑑別が特に重要である。通年性アレルギー性鼻炎では,下甲介粘膜は蒼白で,アレルゲン曝露時のくしゃみ発作や大量の水様性鼻汁,さらにはその後に続く鼻閉に苦しめられる。このような症例ではほとんどの場合,手足の冷えを伴い,色白で細面といった特徴を有している。
こういった寒証症例は,漢方的には肺中冷の状態であり,甘草と乾姜を基本骨格に持つ方剤が有用である。代表的な方剤が小青竜湯であるが,現実的には小青竜湯のみでの効果はさほど期待できない。冷えを認めるのであれば,肺中冷のみならず経絡の冷えも共に除くようにすると効果がある。附子末の併用が有用である。
実際の運用としては,小青竜湯に附子末を加えるか,小青竜湯と麻黄附子細辛湯を併用すると良い。山本巌は,鼻炎の患者にその場で麻黄附子細辛湯を内服させ,15分後,30分後の効果をみており,その有用性を報告している2)。また根本的な治療のために,寒証では,当帰芍薬散や真武湯などが有用である2)。服用時のポイントは,寒証症例にはできる限りお湯に溶いて温服させることである。
一方,花粉症症例によく見られる熱証の場合には,鼻粘膜は発赤して肥厚しており,暑がりで長湯は苦手といった特徴が認められることがある。
このような症例では熱を冷まし,粘膜表面の浮腫を取り除く麻黄と石膏の組み合わせが有用となる。代表的な方剤は越婢加朮湯である。寒証例と違い,こちらは冷服の方が良い。重症例や副鼻腔炎を併発している症例では,さらに石膏の量を増やすために桔梗石膏エキスを併用するか,辛夷清肺湯エキスを併用するとよい。ただし,辛夷清肺湯を併用する際には,黄芩や山梔子による肝機能異常などの出現に気を付けることを忘れてはならない。