【PEAの持続時間と心拍回復は,その原因と重症度によって大きく異なる。自験例では,持続時間は10~30分程度であり,正常心拍に回復したものも,しなかったものもある】
まず,PEAの定義は,質問者が述べた通りです。ただし,心電図で心室細動や心室頻拍の波形を認める場合は,PEAとは呼びません。急激な循環血液量の減少,重症の低酸素血症,高度の電解質失調,過度な低体温,広範囲の心筋梗塞,心タンポナーデなどが原因となって,PEAは引き起こされます。可及的速やかに胸骨圧迫を中心とした良質な心肺蘇生が行われないと,確実に心静止となり,死に至ります。脈拍数が少ないほうが,また,QRS波形が幅広いほうが,死に至る率が高いとされています。
ご質問された「持続時間」についてですが,原因によって様々であり,一概にどのくらいかということを記載した書籍はございません。質問者は,何も医療介入をしなかった場合の「持続時間」について,お聞きになったのだと察します。原因となった病態の重症度に依存しますが,筆者のこれまでの経験では10~30分程度だと思います。
自験例として,広範囲の心筋梗塞によって突然の多形性心室頻拍から心室細動を呈し,心室細動停止後にPEAに至ったケースでは,PEAの持続時間は10分程度でした。また,止血困難な胸腔内出血で循環血液量が徐々に減少したケースでは,PEAの持続時間は30分程度でした。このような経験から,筆者はPEAの持続時間を10~30分程度と考えています。
次に,PEAの状態から心拍が完全に回復することはありますか,という質問についてですが,これも原因によって異なります。たとえば,循環血液量の減少が原因であれば,胸骨圧迫を行いながら,急速な補液(または輸血)とアドレナリン静注を行うことによって,徐々に脈拍に触れることができるようになり,PEAから離脱し,正常心拍に回復することはあります。一方で,左冠動脈主幹部閉塞の急性心筋梗塞のように心筋が広範囲で壊死して心収縮力を改善できないようなケースでは,心肺蘇生によっても心拍の回復は期待できません。
このように,PEAの持続時間と心拍の回復は,「その原因と重症度によって,大きく異なる」ということで理解して頂ければと考えます。
【回答者】
池田隆徳 東邦大学大学院医学研究科循環器内科学教授