急性緑内障は急性に著しい高眼圧を生じた病態で,視力低下,霧視,眼痛,頭痛,悪心・嘔吐などの症状を伴う。短期間で不可逆的な視機能障害を生ずる可能性があり,速やかな治療開始が必要である。閉塞隅角機序による頻度が高いが,これには原発性,続発性がある。原発性の場合には,急性原発閉塞隅角症(acute primary angle closure:APAC),急性原発閉塞隅角緑内障(acute primary angle closure glaucoma:APACG)と呼ばれ,一般に急性緑内障発作と表現された場合にはAPAC,APACGを指すことが多い。閉塞隅角を生ずる続発緑内障として,水晶体脱臼,原田病による脈絡毛様体剝離,膨隆白内障などがある。続発緑内障では,開放隅角でも急性緑内障を生ずることがあり,サルコイドーシスやウイルス感染に伴うぶどう膜炎,水晶体融解に伴う緑内障などがある。
本稿ではAPAC,APACGの診断と治療を中心に述べる。
高眼圧と角膜浮腫により視力低下,霧視,眼痛,頭痛,悪心・嘔吐,対光反射の減弱などの症状を呈することが多いが,必ずしもすべての症状を呈するわけではないので注意を要する。APAC,APACGでは隅角鏡にて隅角の全周性の閉塞を認める。隅角閉塞は瞳孔ブロック,プラトー虹彩,水晶体因子などのメカニズムが組み合わさって起こるが,APAC,APACGでは瞳孔ブロックが強く関与している場合が多い。
続発閉塞隅角緑内障との鑑別には,前房深度の左右差や水晶体動揺の有無,超音波生体顕微鏡(UBM)での毛様体やチン氏帯の観察などが有用となる。
APAC,APACGの場合,最終的には手術治療が必要となるが,まず薬物治療として仰臥位安静での高浸透圧薬の点滴と縮瞳薬の頻回点眼を行う。この治療により瞳孔ブロックの解除と眼圧下降が得られるかどうかで,その後の手術治療の術式選択や手術時期が異なってくる。
薬物治療にて瞳孔ブロックの解除が得られなかった場合は,まずその解除が最優先となる。手術治療を緊急で行う必要があり,その方法としては観血的周辺虹彩切除術(PI),レーザー虹彩切開術(LI),水晶体再建術(白内障手術)が挙げられる。角膜浮腫で視認性が悪い状態でのLIは,水疱性角膜症発症のリスクも考慮され,筆者は発作解除目的にはPIを選択している。水晶体再建術は瞳孔ブロックだけでなく,プラトー虹彩や水晶体因子といったその他の隅角閉塞メカニズムにも有効であり,最も根本的な治療となりうる。視認性が良好であり,安全に手術を遂行できる条件がそろっていれば,水晶体再建術を実施することも可能である。しかし角膜浮腫などで条件が悪い場合は,PIによりまずは発作の解除を図り,水晶体再建術は後日,二期的に行うことを検討する。
初期の薬物治療にて瞳孔ブロックの解除と眼圧下降が得られた場合には,緊急での手術が必要ではないものの,再発作のリスクが高いため早めに手術的治療を考慮すべきである。手術までの間は縮瞳薬の点眼を継続し,再発作を予防する。手術的治療としては先に挙げたPI,LI,水晶体再建術がある。APAC後にLIを行った群と水晶体再建術を行った群の比較では,LIでは12カ月で40%以上に眼圧再上昇を認め,長期的に眼圧上昇しやすいこと,平均経過眼圧はLIよりも水晶体再建術のほうが低いことが報告されている1)。また,PI,LIは瞳孔ブロック以外の隅角閉塞メカニズムには効かないことから,水晶体再建術を選択する場合が多い。周辺虹彩前癒着が広範囲な症例では,水晶体再建術の際に同時に隅角癒着解離術を行う。
APAC,APACG以外の急性緑内障の場合は,初期治療としての高浸透圧薬の点滴や炭酸脱水酵素阻害薬の内服などはあくまで補助的治療であり,続発緑内障の原因治療が第一となる。そのため,眼圧上昇の原因をきちんと診断することが重要であり,原因に応じた治療を選択する。
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