直腸から肛門部にできる腫瘍としては,癌のほか,神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:NET),GIST(gastrointestinal stromal tumor),悪性黒色腫や悪性リンパ腫などがある。ここで言う「癌」とは,直腸や肛門の粘膜から発生した上皮性の悪性腫瘍のことである。直腸癌のほとんどは腺癌であるが,肛門管癌は扁平上皮癌が25~30%で痔瘻癌のような粘液癌を含む腺癌が約70%である。直腸NETは粘膜の最下層にある神経内分泌細胞から発生する腫瘍で,従来カルチノイドと言われていたが,癌と同じく転移もする。GISTは直腸の筋層に連続する間葉系腫瘍であり,5cmを超えるものや病理検査で核分裂像が多くみられるものは悪性度が高いとされる。
下血や腸閉塞の症状が出現することがあるが,検診で発見されるような無症状のものも多い。肛門縁から指の届く範囲にあれば触診で確認されるが,最終的には大腸内視鏡検査とその際の生検による病理診断が決め手となる。
早期癌の中でも粘膜内癌や粘膜下層浅部浸潤癌では内視鏡的な切除〔内視鏡的粘膜切除術(EMR)あるいは内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)〕が適応となる。粘膜下層深部浸潤から筋層浸潤までの癌であれば,直腸周囲のリンパ節郭清を伴う直腸切除術の適応である。さらに進行した進行癌であれば,手術前に化学放射線療法や全身化学療法を行った上で,同じくリンパ節郭清を伴う直腸切除術を行う1)。
1cm未満のものであればまずはESDを行い,病理診断においてGrade分類でGrade 2以上,脈管侵襲陽性,または筋層浸潤を伴うものは,直腸周囲のリンパ節郭清を伴う直腸切除術を行う。1cm以上のものは最初からリンパ節郭清を伴う直腸切除術を行う2)。
腫瘍径が3cmを超え,周囲の臓器(特に前立腺)に近接しているような場合には,術前にグリベック®(イマチニブメシル酸塩)内服による化学療法を行う。腫瘍縮小効果が期待され,これにより前立腺や肛門挙筋に接するようなものでも隣接臓器の温存が可能となることがある。
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