食道扁平上皮癌は,飲酒・喫煙の生活習慣とアルコール代謝酵素の遺伝子多型が強く発がんに関係する。一方で,食道腺癌は逆流性食道炎による持続的な炎症,腺上皮化生を背景として食道胃接合部や下部食道に発生する。わが国では食道癌の約90%は扁平上皮癌であるが,欧米では70%が腺癌である。近年,肥満者の増加,食事の欧米化により,わが国でも腺癌が急速に増えている。
食道(接合部も含めて)の異常は,咽頭違和感として感じることが多く,耳鼻科を受診して異常なしと診断されることがある。また,食道入口部付近は内視鏡で十分に観察されずに見逃されることもある。内腔が狭く食物の詰まりを感じてから完全閉塞までの期間が短いので,迅速に検査計画を立て診断する必要がある。リンパ節転移が反回神経に浸潤して,嗄声を呈することもしばしばある。
食道癌は,リンパ節転移が多く範囲も広いこと,気管大血管が近接し局所進行が短期間で致命的になること,手術侵襲および術後障害が大きいこと,化学療法,放射線療法,免疫療法に対する感受性が高いこと,栄養障害と体力低下をきたしやすいこと,下咽頭癌,胃癌など重複がんが多いこと,などを念頭に置いて診療にあたる必要がある。
検査は内視鏡,造影CTが必須である。PET検査は,転移診断,治療効果判定などの点から有用性が高い。内視鏡検査のヨード不染帯による早期がんや前がん病変の検出感度は非常に高いが,手間がかかる,患者が苦しいということから,主にハイリスク症例に対して行われてきた。現在は狭帯域光観察(NBI)にて褐色域として診断されるようになり,早期がんの検出が飛躍的に増えている。表在がんについては,超音波内視鏡により深達度診断がされることが多い。近年では,NBIを用いた拡大内視鏡により血管構築(乳頭内血管,新生血管,無血管領域)のパターンにより,深達度診断がされるようになった。
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