運動麻痺とは,脳や脊髄,末梢神経が障害されることで随意的に手足などが動かしにくくなる状態である。運動麻痺には局在により様々な鑑別疾患が挙がるが,運動麻痺を呈する患者において真っ先に除外する必要があるのは脳卒中である。脳卒中は発見・治療の遅れが予後に直結するという意味で非常に緊急性の高い疾患であるため,運動麻痺を呈する患者において最初に除外することが必要となる。そのため,ここでは主に脳卒中に対する緊急対応に関して述べる。
患者は運動麻痺を様々な表現で訴えるため,病歴聴取の際は注意が必要である。患者の主訴として多いのは,歩きにくい,動けない,しびれる,顔が歪んでいる,などである。運動麻痺であることが確認できた場合,脳卒中除外のために検査を急ぐ必要がある。
また脳梗塞に対する静注血栓溶解〔アルテプラーゼ(rt-PA)〕療法は発症(または最終健常確認時刻)から3(~4.5)時間,機械的血栓回収は発症から6時間(最大24時間)までが適応となることから,正確な発症時間の聴取が不可欠である。発症時刻が不明の場合は最終健常時刻を確認する。午前中の来院の場合は,併せて起床時の症状の有無も聴取する。抗凝固薬の内服がある場合は最終内服時間も確認が必要となる。
脳卒中の場合,高血圧となることが多い。収縮期血圧が140mmHg以下である場合は別の疾患も想定しつつ,鑑別を進める。
運動麻痺の局在により鑑別疾患は異なるため,身体診察により明らかにする。片麻痺,対麻痺,単麻痺,四肢麻痺により,ある程度鑑別を絞ることができる。しかし,どのような運動麻痺でも脳卒中を否定することは困難であるため,実臨床では時間的緊急性の高い脳卒中を疑い,それを除外するべく検査を進めていくこととなる。
脳卒中を疑う場合,治療方針や検査に関わるため,速やかにNIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)をスコアリングする。その過程で四肢の運動麻痺以外にも,意識障害,視野障害,顔面麻痺,運動失調,感覚障害,失語,構音障害を評価する。
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