1 慢性腎臓病(CKD)は高齢者の疾患
2002年に慢性腎臓病(CKD)の概念が提言されたことにより,高血圧,糖尿病の合併症としての二次性腎機能障害,加齢に伴う腎機能低下がCKDとして扱われるようになった。現在,CKD患者は,高齢者が圧倒的に多い。わが国では65歳以上の男性の約30%,女性の約40%がCKDという報告がある。
2 たんぱく制限は「低たんぱく質高エネルギー」
たんぱく制限は本来「低たんぱく質高エネルギー食」であり,減らしたたんぱく質分のエネルギーを補充することが前提である。エネルギー補充は調理法で対応できるが,他の合併疾患との兼ね合いの判断は難しいことが多い。
3 高齢者が直面するサルコペニア・フレイル
ほぼすべての高齢者はサルコペニア・フレイルに直面している。特に短期間でも入院すると,運動不足に加えて「入院食はまずいから食べない」ため,サルコペニア・フレイルのスタートを切ってしまう。予防と改善には,良質なたんぱく質を摂取してしっかり運動することが有用だとされている。
4 合併例ではどうする?
CKD患者の多くが高齢者なので,サルコペニア・フレイルを高率に合併しているか,その高リスク群であると考えてよい。
「サルコペニア・フレイルを合併した保存期CKDの食事療法の提言」では,CKDとサルコペニアのリスクを比較検討してたんぱく質摂取量を指示するとしているが,いずれの病態も進行の予測は非常に難しい。
5 進行しない腎臓病?
CKDの中には進行速度が遅いものもある。この見きわめのひとつとして,尿蛋白の有無が重要である。試験紙法で(-)または(±)である場合には進行が緩徐または進行しない可能性が高く,サルコペニア・フレイル対策を優先してよいと判断可能である。詳細なリスク判定はTangriらの回帰式などを用いるか,専門医に依頼してもよい。
6 管理栄養士がいなければ腎臓病療養指導士
医療に携わる管理栄養士の数は少なく,採算面からも小規模医療機関に常勤できる状態ではない。非常勤で雇用しても,患者の来院日と合わないなどの不都合がある。さらに,現場で自信を持って栄養指導をできる医療者は少ない。そうした中で,腎臓病療養指導士は,CKD管理に関する看護師,薬剤師,管理栄養士の領域を広く浅く学ぶことができる資格であり,医療者の少ない施設でも,CKDに対して「ひとりチーム医療」ができる。
7 結局やるのか,やらないのか
筆者は,たんぱく質摂取制限を行う症例は非常に限られると考えている。薬物と違って,家族にまで影響を及ぼす食事療法は「できる範囲で行う」「身体に悪いことはしない」のが限界で,数値にとらわれないことが重要である。食塩にしても「6g未満」にこだわらず,「15gを10gに減らすことにも大きな意義がある」と説明している。特に,栄養素を実際にどのくらい摂取したかを定量化することは難しいため,「今より増やすか,減らすか」を指示して,臨床的な指標の変化に応じてさらに指示していくのが,多くの患者に継続してもらえる方法だと考えている。