筋強直症候群の代表的疾患である筋強直性ジストロフィーは,骨格筋だけでなく,心筋・平滑筋,中枢神経系,内分泌系,眼など様々な器官を侵し,多様な全身症状を呈する遺伝性疾患である。DMPK遺伝子のCTG反復配列の異常伸長が原因であり,わが国には1万人以上の患者がいると推計される。
筋強直症状(ミオトニア)や遠位筋優位の筋力低下(頸部筋,前脛骨筋,手内筋で目立つ)のほか,房室ブロックや心室性頻拍などの心伝導障害や,消化管機能障害,耐糖能障害,脂質代謝異常,認知機能低下や性格変化,過眠,白内障,前頭部禿頭など,様々な症状がみられる。また顔面筋萎縮のため斧様顔貌を呈することも多い。針筋電図では針電極刺入時のミオトニア放電がみられるほか,確定診断にはサザンブロット法でDMPK遺伝子のCTGリピート長を測定する遺伝子検査が行われる。
現時点で筋強直性ジストロフィーの根治的治療は存在しない。筋強直症状に対しメキシレチンやフェニトインが用いられることもあるが,そもそも患者が筋強直症状に対し,それほど苦痛を感じていないこともあり,実際に処方されている例は少ない。
呼吸筋障害の進行により,自覚症状なく夜間の呼吸機能低下がみられることがあり,睡眠時SpO2モニターを積極的に行う。予後を改善するためには,時期を逸せずNIPPVなどの非侵襲的陽圧呼吸補助を開始する必要がある。また,頻度は低いが心筋症による心不全を起こすこともあるほか,不整脈などによる突然死を防ぐためにも,心機能を含めた定期的なフォローアップが必要である。白内障や糖尿病,脂質異常症の合併がある場合は,これらの治療が必要となる。イレウスの予防のため,食事指導や消化管機能改善薬などで排便コントロールに努める。
女性患者から子が生まれる場合,生下時よりフロッピーインファントの状態で哺乳困難・呼吸困難をきたし,精神発達遅滞も伴う重症型の先天性筋強直性ジストロフィーとなる可能性があり,必要に応じて遺伝カウンセリングを行う。
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