現在、わが国の心不全診療ガイドラインは、心不全「症候」が出現する以前の、「心不全リスクのみ」(ステージA)、「器質的心疾患のみ」(ステージB)の段階から、予防的な介入を推奨している。心不全の進行は不可逆的と考えられているためだ。ひとたびステージが進むと、もはや後には戻れない[Circulation. 2013;128:e240]。
この「ステージA、B」心不全を発見し、そして介入するのは、主にかかりつけ医となるだろう。では、健康人から「ステージA、B」心不全への移行率はどれほどだろうか。7月20日、J Am Heart Assoc誌HPで先行公開された、米国発の研究が話題となっている[J Am Heart Assoc. 2022;11:e025519](全文無料公開)。
この研究の対象は、米国ミネソタ州のオルムステッドという郡に住む、心不全リスク因子はなく、心臓の器質的・機能的異常も認められなかった(エコー評価)、45歳以上の398名である。平均年齢は58.1歳、女性が53%を占め、BMI平均値は25.5kg/m2だった。米国人にしてはスリムである。
ではこの健康な398名のどれほどが、心不全に移行したのか。4年後に再検査したところ、49%(191例)が「ステージA、B」心不全となっていた。発生率を計算すると、12.1/100例・年。単純計算として、毎年12.1%が心不全に移行していた(なお、本研究「ステージB」心不全にはガイドラインと異なり、「器質的心疾患」だけでなく「機能異常のみ」も含まれている)。
目を引いたのは、これら「心不全移行」191例中66%がすでに「ステージA」を通り過ぎ、「ステージB」心不全となっていた点だ。
さらに、この「ステージB」心不全例の71%で、中等度以上の左室拡張障害が認められた。拡張障害を伴う心不全(HFpEF)を発症すると、よく知られているように、「心血管系(CV)死亡・初回心不全入院」、「全心不全入院」を抑制する薬剤は報告されているものの、「CV死亡」そして「総死亡」を抑制できる薬剤はまだ現れていない[N Engl J Med. 2021;385:1451]。
原著者らは、「ステージA、B」心不全を見逃さない重要性を指摘している。
なお、「ステージB」心不全移行例における心エコー所見以外の特徴として、4年間の「BMI増加」(25.8→26.1kg/m2)、「拡張期血圧低下」(71.1→68.7mmHg)、「心拍数減少」(64.9→62.8拍/分)、「高血圧発症」(0→57%)、「脂質異常症発症」(0→25%)が挙げられていた。
本研究は行政、並びに独立慈善団体である“Heartbeat Trust”の資金提供を受けた。同Trustは製薬会社8社から、使途制限のない教育・研究資金を受けている。