SGLT2阻害薬には血糖低下作用に加え、ヘマトクリット上昇作用が知られており[Kanbay M, et al. 2021.]、これが心腎保護の一因ではないかと考えられている[Fitchett D, et al. 2021.、Li J, et al. 2020.]。ヘマトクリット上昇の理由としてはこれまで、利尿作用がもたらす循環血液量減少が挙げられてきた。しかし近時、SGLT2阻害薬には「赤血球産生促進」作用も報告されている[Marathias KP, et al. 2020.]。一方、赤血球産生は鉄を要するため、鉄が欠乏傾向に向かう可能性がある。そして鉄欠乏は、収縮障害心不全(HFrEF)例の予後増悪予知因子と考えられている[von Haehling S, et al. 2015.]。
ではSGLT2阻害薬は、HFrEF例の鉄代謝と赤血球系にどのような変化をもたらしているのか。この点を検討した、ランダム化比較試験"DAPA-HF"の後付解析が8月17日にCirculation誌ウェブサイトで先行公開され、注目を集めている[Docherty KF, et al. 2022.]。
2019年に報告された通りDAPA-HF試験では、標準治療下のHFrEF例へのSGLT2阻害薬追加により、プラセボに比べ「心不全(HF)増悪・心血管系(CV)死亡」(1次評価項目)リスクは有意に低下した(ハザード比:0.74、95%信頼区間[CI]:0.65-0.85)[McMurray JJV, et al. 2019.]。
今回、解析対象とされたのは、DAPA-HF試験に参加した4744例中、赤血球系のデータが入手可能だった、HFrEF 3009例である。
試験開始時、43.7%に鉄欠乏(血中フェリチン<100ng/mL、またはTSAT<20%かつフェリチン:100-299ng/mL)を認めた。
まず、試験開始時「鉄欠乏」の有無は、SGLT2阻害薬による「HF増悪・CV死亡」抑制作用に影響を与えていなかった(交互作用P=0.59)。
この結果から原著者らは、HFrEFに対するSGLT2阻害薬の適応決定に際し、「鉄欠乏」の有無は考慮すべきでないと述べている。
次に鉄代謝に目を向けると、試験開始時「鉄欠乏」のなかった1334例中、315例(23.6%)で、試験開始1年後に新規「鉄欠乏」を認めた。この「鉄欠乏」新規発生オッズ比は、SGLT2阻害薬群で、プラセボ群に比べ、有意に高かった(1.74、95%CI:1.34-2.25)。
一方、同期間この1334例において、SGLT2阻害薬群では、プラセボ群に比べ、ヘモグロビン濃度が7.34g/L、ヘマトクリットも3.00%の有意高値となっていた。
原著者らは上記変化を、SGLT2阻害薬による赤血球産生に伴う、鉄利用促進の反映ではないかと捉える。そしてその理論的帰結として、SGLT2阻害薬服用HFrEFに対する鉄補充追加が有用ではないかと考察している。
なお、試験開始後1年間に「鉄欠乏」新規発生の315例(実薬・プラセボ群併合)では、非発生1016例に比べ、「HF増悪・CV死亡」の補正後ハザード比は1.92(95%CI:1.21-3.04)の有意高値だった。
またこれら315例における、SGLT2阻害薬とプラセボ群の転帰比較は、(おそらく例数が少ないため)報告されていない。
DAPA-HF試験はAstraZenecaから資金提供を受けて実施された。